好評の歌舞伎初心者向け、オススメ度の星評価表!!現在、東京・歌舞伎座で公演中の「芸術祭十月大歌舞伎」(夜の部)の初心者向けのオススメ度表です。★が多いほど必見です。満点は★★★★★。
公演会場での「盛り上がり度」、「眠っている人度」、「口コミ度」などを総合的に判断しました。
★:オススメ、☆:イマイチ
<夜の部>
★★★☆☆(1)沓手鳥孤城落月(4:30-4:57, 5:07-5:42)
★★★★☆(2)漢人韓文手管始 唐人話(6:12-7:47)
★★★★★(3)秋の色種(8:02-8:29)
【総評】
・総合点★★★☆☆
総合点で三つ星です。伝統的な「ザ・歌舞伎」という演目がないため、ビギナーにはちょっと応用編の感じもあり、三つとしました。しかし、坪内逍遥の作品、上方歌舞伎、舞踊とバラエティーにとんだ演目が続きますので、飽きることなく歌舞伎の懐の深さを感じられると思います。玉三郎さんが一幕目と三幕目に登場します。歌舞伎座では久しぶりの登場ですね。美しかった。ほか、鴈治郎さん、芝翫さんというベテランから、七之助さん、松也さん、梅枝さんと安定の布陣で安心して観劇できると思います。とくに第二幕の上方歌舞伎は、舞台模様もちょっと風変わりで、女性を巡る男の恨みつらみ、という現代にも通じるわかりやすい題材でオススメです。
今回、ビギナーの筆者は奮発して1階かなり奥の2等席(1万4000円涙)から観劇しましたが、こんなに舞台が近く見えるとは思っていませんでした。いつもの3等席からの場合は、舞台の奥行きが高見から把握できるのですが、1階席から観るとそれが感じられない反面、とても自然で身近に舞台を観ることができました。回り舞台がまわって舞台が変わる流れが、3階から観るのと全然違って観られるのが新鮮でした。二等席は2階にもありますが、1階の二等席もオススメいたします。まわりに空席も若干あってのんびりと鑑賞できますし。1年に一度は1階で観たいものですね(願望)。
<10月1日初日の観劇結果です>
<夜の部>
★★★☆☆(1)沓手鳥孤城落月(ほととぎすこじょうのらくげつ)
「ほととぎすこじょうのらくげつ」と読みます。絶対に初見では読めませんね。坪内逍遥の「桐一葉」の続編の史劇で、1905年(明治38年)に歌舞伎として上演されたとのことです。舞台上でセリフのやりとりが続く会話劇です。冒頭からずっと会話で、いきなり睡魔に襲われますが、淀の方役の玉三郎が怒り出すところから舞台は緊張に包まれ、そのまま最後まで緊迫した舞台が続きます。
この演目の特徴は、ズバリ「玉三郎がずっと怒っている芝居」。怒っていても、優雅で動きが美しい。玉三郎が別格なのをあらためて認識できると思います。脇を固める七之助、米吉、松也、萬次郎、彦三郎、梅枝、児太郎も安定しています。初日に観劇しましたが完成度が高く安心しました。プロですものね。
七之助は、なんと秀頼役で武将の立役(たちやく。歌舞伎の男役)です。いつもは妖艶な女形が多い七之助ですが、決まっていました。切れ長の目は男性を演じても女性を演じてもどちらも映えますね。児太郎さんも、より妖艶な悪女ぶりがぴったり。最後に自害する場面は迫力満点でした。恐れ入ります。
ビギナーとしては、隈取りなどが観られない演目のため物足りなさを感じるかもしれませんが、「明治時代の最前線の歌舞伎」ということを意識すると、見方が変わってくるかもしれません。残念ながらまわりでは寝ている方が多かったのですが……。
★★★★☆(2)漢人韓文手管始 唐人話(かんじんかんもんてくだのはじまり とうじんばなし)
これもビギナーには見慣れない演目ですよね。いえ、歌舞伎通の方にも珍しい演目かもしれません。歌舞伎座での上演は23年ぶりということです。23年前は1994年です。ビギナーの中にはまだ生まれていない人もいるかもしれません。
幕が開くと一面ピンクの舞台。屋根などの曲線が美しい唐風の仕様となっていて、舞台全体がとても新鮮に感じられると思います。この演目は、好きな女性を巡っての嫉妬の劇です。いじめられるのか、伝七役の鴈治郎、いじめるのが典蔵役の芝翫です。この演目では七之助は、女形の高尾を演じています。
とにかく、いじめられる鴈治郎がかわいそう……。そして、いじめる芝翫がにくたらしい。そのように自然に感情移入してしまうほどわかりやすい演目でした。脇をかためる高麗蔵演じる泉之助も、頼りない若殿を好演していてニヤリとしてしまいました。亀蔵の呉才官もはまり役。ぴったりですね。眠ってしまうこともなく楽しめる演目だと思います。ビギナーとしてはちょっと歌舞伎っぽくないので物足りなさを感じるかもしれませんが、歌舞伎の懐の深さを感じられると思います。
上方歌舞伎って、弱い男性がでてくることが多いのですが、鴈治郎はまさにぴったりですよね。なよなよっとしてるいい男。対照的に力強い、単純な男を芝翫が演じていて、その対比が楽しめると思います。
この演目でビギナーのわたしが実は一番驚いたのは、友右衛門。いつもは立役が多いのですが、今回や女形での登場です。いや、弟の雀右衛門さんにそっくりじゃないですか。驚きました。みなさんもぜひ注目ください。
★★★★★(3)秋の色種(あきのいろくさ)
玉三郎、梅枝、児太郎の舞踊ものです。玉三郎が優雅に踊り、梅枝、児太郎がその踊りに花を添える、という感じでしょうか。とても美しく優雅ですので、歌舞伎ビギナーにも舞踊の素晴らしさを感じられると思います。時間は30分ほどですが、あっという間に終わってしまったという印象です。会場からは、ため息のようなどよめきが終始聞こえていました。玉三郎効果ですね。
驚いたのは、梅枝と児太郎が琴を生演奏したということです。ちょっと音量が小さい印象でしたが、優雅に弾いておりました。初日ということもあり、見ている方がはらはらしてしまいましたよ。
演奏にも注目したい演目です。五挺五枚(ごちょう・ごまい。三味線の演者が5人、歌を歌う人が5人)の大薩摩が、松虫の鳴き声を模した曲などを三味線で演じている、とイヤホンガイドが言っていました。長唄「秋の色種」は、長唄中興の祖の杵屋(きねや)六左衛門の作曲とのことです。
にぎやかに楽しめた本日の歌舞伎鑑賞のしめに最適の舞踊ものです。みなさま、楽しんでいたたけることと思います。