圧巻!20分の大立廻り「十二月大歌舞伎」(第二部)オススメ度の星評価!


好評の歌舞伎初心者向け、オススメ度の星評価表!!現在、東京・歌舞伎座で公演中の「十二月大歌舞伎」(第二部)の初心者向けのオススメ度表です。★が多いほど必見です。満点は★★★★★。公演会場での「盛り上がり度」、「眠っている人度」、「口コミ度」などを総合的に判断しました。★:オススメ、☆:イマイチ
今月は、「昼の部」「夜の部」の二部制ではなく、「第一部」「第二部」「第三部」の三部制です。

<第二部>
★★★★☆(1)らくだ(3:00-3:49)
★★★★★(2)倭仮名在原系図 蘭平物狂(らんぺいものぐるい)(4:14-5:47)




【総評】
・総合点★★★★★
 歌舞伎ビギナーに観て欲しいという視点からすると、堂々の満点の五つ星です! 二つの演目ともビギナーで歌舞伎に興味がある方には是非ご覧いただきたい。「らくだ」は気楽に楽しめてとにかく面白い。ビギナーにすると、「これって普通の時代劇?」と思うかもしれませんが「これも歌舞伎のひとつ」というのがよくわかるよい入門編だと思います。もう一つの「蘭平物狂」は、これこそ「ザ・歌舞伎」。後半の大立廻りがなんと20分も続くという熱演ぶりです。立ち回りのめくるめく世界が展開されて、いや、いったいどうやって順番を覚えているのだろうと、感心しているうちに幕となります。是非ご覧ください。




<12月2日初日の観劇結果です>
<第一部>
★★★★☆(1)らくだ(3:00-3:49)
  落語の名作を歌舞伎が導入したお芝居です。歌舞伎にはそのような演目もありますが、その中でも人気の演目です。上方落語なので、セリフが大阪弁なのも新鮮です。ストーリーもわかりやすくて楽しめますし、世話物歌舞伎の名作として、ビギナー必見です。たのしく気軽 に観られるので四つ星。楽しい歌舞伎のよい例ですので、是非観ていただきたいです。

 ストーリーはこんな感じです。舞台は大阪のみすぼらしい長屋の一室。部屋の奥に一人の男が荼毘に付され、枕元には線香が供えられています。死んでいるのは通称「らくだ」と呼ばれていた宇之助。この宇之助は長屋一の嫌われもので、ふぐの毒にあたって急死したのでした。そのお通夜の準備を兄貴分の熊五郎がしています。

 そこに気の弱い紙屑屋の久六が現れます。熊五郎はこの宇之助を利用して長屋の家主からお金をせしめようと謀ります。それは死んでいる宇之助を久六が担いでいき、「かんかんのう」という踊りを踊らせてお金を脅し取ろうというものです。

 死体を担いだ久六が家主の家に来ると家主宅はもう大騒ぎ。そうしてまんまとせしめたお金でお酒を買って、長屋に帰ると、熊五郎は久六とお酒を飲み出します。すると久六の酒癖の悪さが露呈して、こんどは熊五郎が宇之助を背負わされてと、あべこべになり、大混乱…。こんな感じだったと思います。



 配役は熊五郎に愛之助、久六に中車、そして、宇之助に片岡亀蔵。実はこのお芝居の重要な役はまさに亀蔵。黄色い肌の大きな死体役の亀蔵の熱演ぶりが楽しさを倍増していました。亀蔵は背が大きいので、担ぐ中車はさぞ大変だったのではないでしょうか。愛之助の大阪弁はやはり自然ですよね。歌舞伎座では2016年9月に「駱駝物語」として演じられましたが、そのときは久六を染五郎、半次を松緑が演じていました。染五郎の久六も意外でしたが、役のぴったり度からすると中車が一枚上かもしれませんよね。

 とても感心したのはイヤホンガイド。酒癖の悪い久六の解説のときに「いつの世にも酒を飲むと性格が変わってしまう人がいますよね…」と、今まさに話題の相撲界の不祥事のことに触れていてニヤリとしてしまいました。おくだ健太郎さん、さすがです。恐れ入ります。また、今回の舞台では通常は下手(しもて)にある出入り口は上手(かみて)にありました。この説明もイヤホンガイドでキチンとしてくれました。ぜひイヤホンガイドもお楽しみください。





★★★★★(2)倭仮名在原系図 蘭平物狂(らんぺいものぐるい)(4:14-5:47)
 文句なしの五つ星! 大立廻りがすごいですから、ビギナーは絶対にみるべきです。

 しかしタイトルがすごいですよね。「ものぐるい」ですもん。ビギナーからすると、前半はとても眠たいと思います。子供のことを思う親の心情を、ちょっとコメディータッチで表現しているところもあって面白いのですが、辛抱の時です。しかし、はっきりいって前半で睡眠して後半に体力を温存してもよいかもしれません。見どころは後半の大立廻り。イヤホンガイドによると20分間続くとのことです。この部分、観ていて楽しいというか感心するというか、あっという間です。ビギナーはぜひご観劇ください。人間関係もちょっと複雑なので、予習は必須です。

 蘭平が主役ですが、当初は脇役のようなかたちでストーリーが進行し、最後に大暴れです。あらすじはこんな感じです。在原行平(ありわらのゆきひら)は、須磨においてきた恋人松風(まつかぜ)を思って悶々とした日々を送っています。それを心配した行平の奥方の水無瀬御前(みなせごぜん)は、松風にそっくりなおりくとその夫を松風姉弟だと偽って紹介します。行平は松風だと思っていろいろと話しかけるのですが、話がかみ合わない。

 そんなとき、不審者が現れたという知らせが入り、行平の手下、奴(やっこ)の蘭平は、自分の子供繁蔵(しげぞう)に手柄を与えたいため、繁蔵を向かわせます。しかし子供のことが心配な蘭平はぱっとせず、そのふがいなさに怒った行平が刀でおどします。すると刀をみた蘭平は、挙動がおかしくなります。蘭平は刀をみるとおかしくなる性格のため、武士にはなれないのでした。そのため、息子の繁蔵には手柄をあたえて武士になってほしいと思っているのでした。

 そうしてしばらくすると、繁蔵が不審者の首をもって帰って来ます。するとどういうわけか、おりくの兄であった与茂作が行平に斬りかかります。行平は蘭平に与茂作を討つようにいわれ、対峙することに。このとき、与茂作の刀を見た蘭平が、与茂作が自分の実の弟であることがわかります。実は蘭平と与茂作は、行平に親を殺された兄弟で、自分の素性を偽って行平に近づき、復讐のときを待っていたのでした。こうなったら、兄弟で行平を倒すしかありません。そうして、蘭平は行平を討つため、捕り手と激しく戦うのでした…。



 配役は、蘭平を松緑、行平を愛之助が演じます。ビギナーが気になったのは、蘭平がきている着物の柄(がら)。金色で「蘭」と書かれ、蘭の図案も書かれているのがとても粋に感じられました。ほか、与茂作を板東亀蔵、水無瀬御前を児太郎、そして、子供役の繁蔵を松緑の息子左近が好演します。ここで、本日の二部を観ているビギナーは「亀蔵」過多のため混乱するでしょう。「らくだ」の亀蔵は片岡亀蔵ですが、こちらは板東亀蔵。こないだまで板東亀寿だった人です。まぎらわしですよね。簡単な覚え方をこっそりお教えします。片岡亀蔵さんは、昨年国立劇場でPPAPのピコ太郎を演じている亀蔵。板東亀蔵さんは、羽左衛門の系統の亀蔵。片岡亀蔵=ピコ太郎、板東亀蔵=羽左衛門。いかがでしょうか。逆にわかりずらいか…。

 話がそれました。しかし、蘭平の最後の大立廻りは必見です。とぎれることなく様々なかたちの大立廻りが演じられます。はしごをつかったり、屋根の上から飛び降りて石灯籠に飛び移ったりと、驚くばかりです。一番の見所は、花道の上にはしごを斜めにかかげ、そこに二人が走り登って見得を切る場面でしょう。4本のさすまたで支えているだけでしたので、見ているこちらもハラハラしました。

 大詰めの大立廻りの幕が始まるまでは、舞台の準備のためか、ちょっと時間がかかりました。そうして「チョンチョン」と柝がなって幕が開く直前、舞台の幕の内側から「行くぞ! おう」という掛け声が小さく聞こえました。プロの意気込みを感じられて、感動した瞬間でもありました。素晴らしい舞台に感謝です。ありがとうございました。





▼第一部の報告はこちら
▼第三部の報告はこちら

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