寺子屋に猿之助!「壽初春大歌舞伎」(昼の部)オススメ度の星評価!


 好評の歌舞伎初心者向け、オススメ度の星評価表!!現在、東京・歌舞伎座で公演中の「壽初春大歌舞伎」(昼の部)の初心者向けのオススメ度表です。★が多いほど必見です。満点は★★★★★。公演会場での「盛り上がり度」、「眠っている人度」、「口コミ度」などを総合的に判断しました。★:オススメ、☆:イマイチ

<昼の部>
★★★☆☆(1)箱根霊験誓仇討(11:00-12:10)
★★★★☆(2)七福神(12:40-12:57)
★★★★★(3)菅原伝授手習鑑 車引(1:17-1:47)
★★★★★(4)菅原伝授手習鑑 寺子屋(2:02-3:27)




【総評】
・総合点★★★★☆
 今月は松本白鸚(はくおう)、松本幸四郎、松本染五郎の襲名披露という特別な公演です。名前が新しくなる高麗屋(こうらいや)のお三方のほか、幹部役者が襲名披露の挨拶をする「口上(こうじょう)」は夜の部のみとなっています。そのため昼の部は華やかさに欠けるかもしれませんが、とんでもない! 歌舞伎ビギナーとしては必見です。なぜなら、昼の部には歌舞伎三大名作として有名な「菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)」の「車引(くるまびき)」と「寺子屋(てらこや)」が演じられるためです。これらは何度も演じられる超有名な演目ですので、ビギナーでまだ観たことのないかたはぜひこの機会に観劇ください。もちろん、新幸四郎、新白鸚にも注目しながらですよ! 




<1月2日初日の観劇結果です>
<昼の部>
★★★☆☆(1)箱根霊験誓仇討(はこねれいげんちかいのあだうち)(11:00-12:10)
 平成三十年歌舞伎座の幕開けは、勘九郎と愛之助出演の仇討ちものです。新歌舞伎座では初上演の演目とのこと。ストーリーもそんなに難しくなく、役者さんの動きも多く、かつ、舞台も後半には一面海の景色となりますので、ビギナーも楽しめると思います。あまり知られていない演目のため及第点の三つ星といたしました。

 兄の仇を探して旅する、このような物語です(人間関係図はこちら)。飯沼勝五郎(勘九郎)は、兄の仇である滝口上野(たきぐちこうずけ、愛之助)を探して妻の初花(はつはな、七之助)とともに旅を続け、箱根山中にやってきます。勝五郎は病のために歩くことができずに台車に座り、それを初花が縄で引っ張って移動する、という痛々しい姿です。そこに、初花に横恋慕する上野が現れ、初花を奪って逃げていきます。

 しかし、初花はどういうわけか逃げて戻ってきて、夫の勝五郎、母の早蕨を連れて白糸の滝に向かいます。そして、そこで滝の水に打たれると、歩けなかった勝五郎の病がなんと治ってしまいます。そんなところへ、敵方の筆助(愛之助)が様子を探るためにやってきますが、なんと初花の首を持ってやってきたのでした。実は、初花は上野に殺されたのでした。逃げ戻ってきて滝に連れて行った初花は幽霊だったのです。そうして、病が癒えて元気になった勝五郎は、兄と妻の仇討ちに向かうのでした。




 哀しい物語です。足の不自由な勝五郎が台車で登場する場面が新鮮です。この場面は、現在国立劇場で公演中の「世界花小栗判官」のパロディーです、と国立劇場の公演でのイヤホンガイドで説明がありました。たしかに、とても似た場面となっていました。気になる方は国立劇場の公演も要チェックです。

 幽霊が出てきたり、生首が出てきたりと、歌舞伎が得意とする「エキス」が詰まっている演目とも言えます。ビギナーでも難しく考えずに楽しめるでしょう。最後の愛之助の立ち回りできれいに芝居が締まる感じで、安心して観劇できると思います。

 ビギナーのわたしが一番面白く思ったのは、イヤホンガイドの解説。さすがの「おくだ健太郎さん」です。初花が上野に奪われる場面では静かな声で「みだらな出来事が暗示されます…」という解説がありました。舞台上ではまーったくみだらではないのですが、いや想像が膨らみます。イヤホンガイドは、たんなるガイドではなく想像力を補うのにも役にたっているのを実感しました。みなさまも是非お楽しみください。

 配役は、勘九郎、七之助、愛之助、そして、秀太郎に吉之丞と、とても安定した布陣です。中村屋、松嶋屋も高麗屋のお祝いを盛り上げている感じですよね。そして、もちろん秀太郎の年老いた女形は、芝居にぐっと安定感が増します。みなさま、ありがとうございました。




★★★★☆(2)七福神(12:40-12:57)
 ズバリ七福神がゆるゆると踊っているだけ! 正月らしくてとてもめでたい感じのする演目です。まったく難しくなく、華やかな衣装が楽しめるビギナーにはおすすめの演目です。

 配役は、又五郎が恵比寿、扇雀が弁財天、彌十郎が寿老人(じゅろうじん)、門之助が福禄寿(ふくろくじゅ)、高麗蔵(こまぞう)が布袋(ほてい)、芝翫が毘沙門(びしゃもん)、鴈治郎が大黒天、です。いちばんのはまり役は鴈治郎の大黒天だとビギナーは思いました。又五郎の恵比寿も上品でしたよ。みなさま、お疲れ様でした。

 そして演目の後半では、宝船がせり出してきて大道具さん大活躍。とても楽しい演目を裏で支えてくれています。ありがとうございまして。七福神の七人が同時に踊るのは、昭和33年以来60年ぶりとのことですので、ぜひご覧いただきたい演目です。





★★★★★(3)菅原伝授手習鑑 車引(1:17-1:47)
★★★★★(3)菅原伝授手習鑑 車引(1:17-1:47)
 さあ、ここからが高麗屋襲名披露公演の本格的な開幕とも言える演目です。歌舞伎三大名作の一つと言われる「菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)」から、「車引」という演目です。30分程度の短いお芝居ですが、まさに「ザ・歌舞伎」。派手な隈取りや見得など、カラフルな舞台はビギナーが観ても楽しいでしょう。

 このお芝居の前提として知っておくべき点をお伝えしましょう。それは、このお話しは3兄弟の物語で、それぞれが仕える人が違っているために、兄弟にもかかわらず敵味方に分かれてしまうという悲劇です。詳しく説明しましょう。




 時代設定は平安中期の醍醐天皇の時代。河内国左太村の百姓四郎九郎は当時としてはとても珍しい3兄弟を授かりました。その3兄弟とは「松王丸」「梅王丸」「桜丸」。この3兄弟は大きくなると、松王丸は藤原時平(ふじわら・しへい)に、梅王丸は菅丞相(かんしょうじょう)、桜丸は斎世親王(ときよしんのう)に仕えることになりました。

 しかし、斎世親王が菅丞相の養女の苅谷姫と、いわゆる「不倫」をしたことが明らかに。それを知った藤原時平は、苅谷姫の父親の菅丞相にその責任をとらせるため、菅丞相を太宰府へ島流しさせます。

 菅丞相に仕えている梅王丸、斎世親王に仕えている桜丸の兄弟は、そのような仕打ちを仕組んだ藤原時平への復讐を誓います。そうして吉田神社に参詣にきた藤原時平を襲撃しようとしたところ、なんと敵方の藤原時平に仕えている兄弟の松王丸が登場、二人の復讐を止めに入るではありませんか。この3兄弟が争っているところへ、当の藤原時平が登場。バリバリの悪役登場という感じです。これに対して梅王丸と桜丸は藤原時平をやっつけようとしますが、時平が強すぎてやっつけることができません。結局、この場所では決着をつけることができず、3兄弟は別の機会に勝負をすることを約束してその場から離れるのでした。




 このような内容ですが、別にこの「車引」では詳しい内容を知らなくても楽しめます。悪者をやっつけようとしたが、その悪者があまりにも強すぎて歯が立たないお芝居、とだけ知っていれば十分です。注目すべきは、その派手の衣装や髪形などです。とても派手ですので観ているだけでも楽しい。難しいこと抜きにして、舞台の華やかさを感じでいただければと思います。

 配役は、新幸四郎が松王丸、勘九郎が梅王丸、七之助が桜丸、そして時平が彌十郎です。新幸四郎はたくましく演技しておりました。初日でも荒々しいところはなく、さすがプロです。七之助は女形が多いのですが、桜丸という好青年を演じていました。これも必見です。

 この演目では、いろいろと歌舞伎用語もでてきます。「むきみぐま」「元禄見得」などなど。イヤホンガイドで丁寧に説明していますので、ぜひチェックしてください。ほかビギナーとして面白いとおもうのは、後ろにいる脇役の方たちがあげるかけ声。「あーりゃー、こーりゃー」「あーりゃー こーりゃー」と聞いているだけでも楽しくなります。

 一番関心したのは、松王丸の足の親指。見得を切る時など、親指をピンとたてているのです。これらも含め、みるところがたくさんありますので、ビギナーの方はオペラグラスを片手に、いろいろと観察してください。



★★★★★(4)菅原伝授手習鑑 寺子屋(2:02-3:27)
 「車引」のあとの15分の休憩、幕間(まくあい)の後は「寺子屋」です。「寺子屋」は「菅原伝授手習鑑」の中の一部のお話ですが、この演目単独でよく演じられています。約1時間半に及ぶ長い芝居です。途中で寝てしまってもよいですから、ビギナーはぜひ観るようにしましょう。

 この芝居は「江戸時代の忠義、親子の情愛などが描かれており、現代にも通じるものがある」とよく言われます。が、ビギナーは一回観ただけでは、そんなことはわからないと思います。それでいいんです。「首実検」といって子供の生首はでてくるは、「野辺の送り」といって舞台上に線香に本当の火をつけるなど、初心者にするとけっこう驚きが多いと思います。でもなんだか面白い!と思うだけで十分だと思います。ビギナーの私も、初めて観劇したときはさっぱり訳がわからず、そのもやもやが我慢できずに幕見席でもう一度見ることで、ようやくわかったような「つもり」になりました。




 さてお芝居の内容は、子供を犠牲にしてまで忠義を優先した親子の、哀しい物語です。「車引」の三兄弟の松王丸が本質的な主役で、このようなお話です。

 舞台は、寺子屋の場面から始まります。寺子屋では、机が並べられて子供たちが書の練習をしています。みんな田舎の子のようで貧しい身なりながらも懸命に勉強しています。しかし、その後ろの一段高いところには、高貴なたたずまいの一人の子供が練習をしています。実はその子は、島流しになった菅丞相の息子の菅秀才。この寺子屋を営む武部源蔵(たけべげんぞう)は、かつて菅丞相に仕えていたこともあり、そのご子息をかくまっているのでした。

 しかし、この寺子屋に菅秀才がいることが、菅丞相の敵方の藤原時平(しへい)に発覚。その手下が寺子屋にやってきて、菅秀才の首を出せと迫ってきます。追い込まれた源蔵は、寺子屋の生徒のだれかを菅秀才の身代わりにして難を逃れようと考えますが、田舎の子どもたちのため、身代わりになりそうな子がいません。しかし、本日寺子屋にはいったばかりの小太郎は、幸いなことに高貴なたたずまいを備えているため、その子を菅秀才の身代わりとすることにしました。そうして、時平の手下に「早く首を出せ」と催促されると、なすすべがなくなった源蔵は小太郎の首を差し出すのでした。

 それからしばらくして、小太郎の母千代が、小太郎の様子を伺いに寺子屋に源蔵を尋ねます。小太郎を菅秀才の身代わりとして殺してしまった源蔵は、母千代も殺してしまおうと襲いかかりますが、そこになんと松王丸が現れます。そこで、小太郎は松王丸と千代の子供であることが発覚。つまり、千代は自分の子供を菅秀才の身代わりに差し出すために寺子屋に連れてきたのでした。松王丸は時平に仕えますが、菅丞相の恩義に報いるために我が子を犠牲にしたのです。そうして、犠牲となった小太郎をみんなで弔って幕となります。




 今回の寺子屋での注目はもちろん、松王丸を演じる白鸚にありますが、もうひとつの「ごちそう」があります。それは、寺子屋の子供の一人のいわゆるボケ役である与太郎役に、猿之助が登場しているのです。猿之助は2017年秋の新橋演舞場の歌舞伎ワンピースで大けがをしてしまい、しばらくお休みしていたのですが、今回が復活の舞台となりました。もともと与太郎は出番が少ないのでちょっとだけの登場でしたが、最後に花道でひっこむときは「リハビリに励んでようやく戻ってきました!」というようなことを話、会場から大きな拍手がわいていました。おめでとうございました。

 さて、今回の配役は、新白鸚が松王丸、梅玉が源蔵、魁春が千代、雀右衛門が源蔵の奥さんの戸波、そして、左團次が玄蕃と、とても贅沢な配役となっています。そして、上述の猿之助が与太郎、きわめつけは藤十郎が園生の前と、襲名披露公演にふさわしい配役となっております。こんな顔ぶれの寺子屋はめったに観られるものではないでしょう。みなさま、好演をありがとうございました。ビギナーとしては、絶対に知っておいたほうが今後役に立つ顔ぶれが勢ぞろいしていますので、かぶき手帖かたてにチェックいたしましょう。

 そしてこの寺子屋のみどころは、たくさんあります。松王丸が哀しいけど忠義を尽くすことができたという複雑な感情を「泣き笑い」で表現する場面、源蔵が「せまじきものは宮使いじゃな」という場面などが有名です。ビギナーの私は、松王丸がひどく咳き込む場面が、どうも痛々しくて印象に残っています。とても奥深い演目ですが、ビギナーとしては、まずはこれって面白いな、というなにかを見つけるとよいと思います。「首実検」とか。そこをきっかけに、歌舞伎の面白さがわかっていくのでは、と思います。そういう意味でも、ビギナー必見の演目ですので、チケットがないかたは、ぜひ幕見席でご覧いただきたく思います。




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