歴史的口上は見逃せない「壽初春大歌舞伎」(夜の部)オススメ度の星評価!


 好評の歌舞伎初心者向け、オススメ度の星評価表!!現在、東京・歌舞伎座で公演中の「壽初春大歌舞伎」(夜の部)の初心者向けのオススメ度表です。★が多いほど必見です。満点は★★★★★。公演会場での「盛り上がり度」、「眠っている人度」、「口コミ度」などを総合的に判断しました。★:オススメ、☆:イマイチ

<昼の部>
★★★☆☆(1)双蝶々曲輪日記 角力場(4:30-5:22)
★★★★★(2)二代目松本白鸚 十代目松本幸四郎 八代目市川染五郎 襲名披露 口上(5:47-6:12)
★★★★☆(3)歌舞伎十八番の内 勧進帳(6:42-7:55)
★★★★☆(4)上 相生獅子/下 三人形(8:10-8:55)



【総評】
・総合点★★★★★
 今月の夜の部は、文句なしの満点五つ星。つまり、ビギナーは絶対に観ないといけません。なぜなら、新白鸚、新幸四郎、新染五郎が新しい名前を発表する口上(こうじょう)のほか、歌舞伎の代名詞ともなっている「勧進帳」が演じられるからです。残念ながらチケットはすでに完売していますが、幕見席でしたら観られます。お昼ごろから並べば立ち見にはなりますが観られるとは思いますので、みなさまチェックしてください。

<1月2日初日の観劇結果です>
<夜の部>
★★★☆☆(1)双蝶々曲輪日記 角力場(4:30-5:22)
 夜の部最初の演目は、「双蝶々曲輪日記」(ふたつちょうちょうくるわにっき)から「角力場」(すもうば)という演目です。「双蝶々曲輪日記」は、この「角力場」のほか、「引窓(ひきまど)」が有名です。今年平成30年の新春浅草歌舞伎では、この「引窓」が演じられていますね。この芝居は世話物(せわもの)という、江戸時代の庶民のドラマです。しばしば演じられる演目ですので、ビギナーとしては、ここで観ておきたいところです。そのため及第点の三つ星としました。ビギナーのわたしは、「引窓」のほうが、しんみりする良いお話なので好きですが。

 ストーリーはこんな感じです。幕が開くとそこは、相撲小屋の入り口。多くの人が相撲見物のために小屋に入っていきます。それは、人気力士の濡髪長五郎(ぬれがみ・ちょうごろう)と素人相撲出身の放駒長吉(はなれごま・ちょうきち)の取組があるためです。もちろん、一番人気の長五郎が勝つと誰しも思っていましたが、なんと本日は長吉が勝つという大番狂わせ。実は、それは長五郎が長吉に勝ちを譲った八百長試合だったのでした。

 その理由は、一人の遊女、吾妻(あずま)をめぐり、それぞれの力士をサポートしてくれているパトロンが奪い合いをしているためでした。つまり、長五郎をサポートしてくれる山崎屋の若旦那の与五郎と、長吉のサポーターの侍平岡郷左衛門が、遊女吾妻の奪い合いをしているのです。郷左衛門は長吉に吾妻を身請け(つまり、遊女の仕事から足を洗って郷左衛門の妻にすること)することに力添えしてほしいとお願いし、長吉は承諾します。一方、与五郎の父に恩義のある長五郎は、吾妻の郷左衛門による身請けを妨害して、与五郎と吾妻が良い仲になるように願っています。そのため、今日の試合でわざと負けて、身請けを思いとどまるように長吉にお願いしたのです。八百長試合で勝ちを譲られたと知った長吉は激怒。二人は口論の末、仲違いして別れるのでした。

 ちょっと複雑かもしれません。しっかりと予習をしておきましょう。配役は、芝翫が長五郎、愛之助が与五郎と長吉の二役、七之助が吾妻です。芝翫の関取姿が、いやかっこいい。そもそもの2枚目に関取の体格の良い姿がぴったりマッチ。一方の愛之助演じる長吉は、素人相撲出身の純真さを上手に演じていて、これもよい感じです。七之助はやはり女形がぴったりですよね。

 みどころは、関取二人が長椅子に座ってやりとりする場面でしょうか。ちょっとこの場面が長いので、眠っている人が多かったのですが、真剣なやりとりはまさに現代に通じるのかもしれません。ビギナーのわたしとしては、すらりとした芝翫、愛之助が、貫禄ある関取に変身しているのに感心しているうちに終わった感じでした。そんなの大柄ではないのですが、ほんとうに関取っぽく見えるんですよ。歌舞伎の妙ですね。そして長吉の着物の柄が気になりました。「放駒」とかかれているほか、将棋のコマが描かれているんですよ。みなさんもぜひ注目してください。





★★★★★(2)二代目松本白鸚 十代目松本幸四郎 八代目市川染五郎 襲名披露 口上(5:47-6:12)
 さあ、口上です。この演目はビギナーにかぎらず、歌舞伎ファン必見です。舞台上には幹部役者勢ぞろい。総合司会は藤十郎。ちょっと滑舌がよくないのですが、85歳の人間国宝ですから、そこは差し引いてあげましょう。こんな順番で挨拶が進みました。

(中央)藤十郎→魁春→歌六→扇雀→愛之助→七之助→孝太郎→又五郎→左團次→吉右衛門(上手最後)→(下手最初)梅玉→東蔵→鴈治郎→彌十郎→高麗蔵→勘九郎→芝翫→雀右衛門→秀太郎→(中央)白鸚→幸四郎→染五郎

おめでとうございます。今後の活躍を期待させていただきます。




★★★★☆(3)歌舞伎十八番の内 勧進帳(6:42-7:55)
 口上のあとは勧進帳です。これはビギナーは観ておきたいですね。ここで観なくてもいつでも観られますが、今月は特別な勧進帳ですので、チケットが購入できなかったビギナーは幕見席にぜひ挑戦してください。ここで満点の五つ星にしなかったのは、ビギナーにすると難しくて、ちょっと長いからです。ビギナーのわたしはどうしても途中で寝てしまう。眠らないで勧進帳を最後まで観ることができたなら、ビギナーから卒業でしょう(?)

 勧進帳という名前は広く知られていますが、ストーリーは果たして広く知られているのでしょうか? ビギナーのわたしもよくわからないので、復習のために簡単に記します。

 この物語は、義経が兄頼朝から逃亡しているときの話です。義経は、平家討伐で好成績をあげたにもかかわらず、兄の頼朝に背くのではないかと疑われてしまいます。そのため、義経は奥州平泉にいる藤原秀衡(ひでひら)をたよりに、北へ逃亡して避難しようとします。奥州平泉は「金色堂」で有名ですよね。

 その逃亡の道中で、加賀国安宅関(あたかのせき)で、関守の冨樫座衛門(とがし)に足止めをくらってしまいます。義経一行は、家来の弁慶らと山伏に変装していたのですが、怪しいと思われたのです。東大寺再建のための寄付を集めている勧進僧と称していたため、寄付の趣旨を書いた勧進帳を読むように、冨樫は迫ってきます。すると家来の弁慶は、白紙の巻物を本物の勧進帳として読み上げるのでした。そうして冨樫は、一行を怪しいと知りながらも、関所の通行を許すのでした。

 冨樫が一行を通すまでには、義経が弁慶に打ち据えられたり、弁慶がかぶらおけのフタでお酒を飲んだりといろいろありますが、主筋としてはそんなお話です。

 配役は、新幸四郎が弁慶、新染五郎が義経、吉右衛門が冨樫と、襲名披露にふさわしい豪華なメンツです。ほか、鴈治郎、芝翫、愛之助、歌六も盛り上げます。新幸四郎、堂々としてました。新染五郎も新鮮。初日にもかかわらず堂々と演技をしていました。ありがとうございました。

 みどころは、「すべて」と言えるかもしれません。「石投げの見得」というのもかっこいいですよね。花道に勢ぞろいする場面も圧巻。これこそ歌舞伎、と言えるのかもしれません。しかし、舞台は能舞台を摸した「松羽目物(まつばめもの)」のため変化はなく、かつ、動きの少ない場面が多く、そしてセリフがとても長いなど、ビギナーのわたしは、どうしても寝てしまいます。ほかの演目に比べるとそんなに面白くはないとも思うのですが、有名ですからしかたないのでしょう。一方で、勧進帳をありがたがる風潮に疑問を持っているという視点で、「ちゃぶ台返しの歌舞伎入門」(矢内賢二)に詳しく書いてありました。どうしても寝てしまう方、これを読むとかなり納得する点がありますので、ぜひ一読ください。





★★★★☆(4)上 相生獅子/下 三人形(8:10-8:55)
 最後は舞踊ものです。勧進帳でちょっと肩苦しくなった頭をほぐしてくれますので、四つ星としました。難しく考えずに目で楽しめる演目です。

 演じられるのは「相生獅子(あいおいじし)」と「三人形(みつにんぎょう)」。「相生獅子」は、石橋物(しゃっきょうもの)と言われる長唄舞踊です。1734年に初演されたという歴史ある演目とのことです。白い着物の扇雀と赤い着物の孝太郎が華麗に踊っています。

 最後の 「三人形」は常磐津舞踊。1818年に初演とのことです。丹前姿の若衆を鴈治郎、赤っ面(あかっつら)の奴(やっこ)を又五郎、傾城(けいせい)を雀右衛門が演じています。「傾城」「奴」「若衆」とかかれた戸板からでてくる3人が新鮮です。「丹前」の由来などの説明をイヤホンガイドで丁寧にしていただいています。

 いや、この夜の部は勧進帳ですっかりパワーを使い果たし感じですので、クールダウンに最適の踊りものでした。ありがとうございました。



▼昼の部の報告はこちら

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