十六夜清心は必見!「吉例顔見世大歌舞伎(2018)」(昼の部)初心者向けオススメ度の星評価!


 好評の歌舞伎初心者向け、オススメ度の星評価表!!現在東京・歌舞伎座で公演されている「吉例顔見世大歌舞伎」(昼の部)の初心者向けのオススメ度表です。★が多いほど必見です。満点は★★★★★。公演会場での「盛り上がり度」、「眠っている人度」、「口コミ度」などを総合的に判断しました。★:オススメ、☆:イマイチ

<昼の部>
★★★☆☆(1)お江戸みやげ (11:00-12:05)
★★★☆☆(2)新歌舞伎十八番の内 素襖落 (12:35-1:28)
★★★☆☆(3)花街模様薊色縫 十六夜清心 (1:58-3:15)

【総評】
・総合点★★★☆☆
 平成最後の吉例顔見世大歌舞伎、昼の部の初心者向け星評価は三つ星。及第点で、観てもみなくてもよいでしょう。荒事などいわゆる「歌舞伎」っぽい派手な化粧や動きなどがないので、ビギナーが観ると物足りない気がするかもしれません。しかし、三幕目の「十六夜清心」はとても有名な演目ですので、ビギナーは必見です。幕見でどれを観ようか迷っている方は、三幕目を観ることをオススメします。

 今月の昼の部は、内容がわかりやすい芝居が多く、予習をしなくても内容は把握できると思います。とくに一幕目は現代劇のようで、とてわかりやすいです。ほのぼのとしたお芝居という、歌舞伎の別の一面を楽しめるお芝居だと思います。イヤホンガイドによりますと、今回の三つのお芝居は、順に「昭和」→「明治」→「幕末」のに作られたお芝居とのことです。それぞれの時代の雰囲気を楽しめるお芝居だと思いますので、その視点から観るとより時空を超えて楽しめるお芝居になると思います。





【演目ごとの講評】
<11月10日の観劇記録です>
★★★☆☆(1)お江戸みやげ (11:00-12:05)
 たのしいお芝居です。まったく予習なしでも楽しめますし、肩の力をぬいてゆったりと過ごすことができると思います。ビギナーとして観るべきかどうかという視点から、標準点の三つ星としました。歌舞伎といいますが、お芝居ですから、歌舞伎初心者は「これが歌舞伎?」と首をひねるかもしれません。そのため三つ星としましたが、お芝居という視点からすると四つ星相当でしょう。

 主役は二人のおばさん、いえ、おばあさんでしょうか。お辻を時蔵が、おゆうを又五郎が演じています。この二人の掛け合いがとても楽しいお芝居です。強面(こわおもて)の又五郎が、女方を演じるのは珍しいですよね。立役の印象が強いので、ビギナーの私としては、志村けんが演じる「あんだっておばさん」を思い出してしまいました。言葉使いも、北海道弁っぽい「そだねー」というような口調でニヤっとさせられましたよ。

 脇を固めるのが、栄紫役の梅枝と、お紺役の尾上右近の女方。この二人、ちょっと面長なのでそっくりなのですよね。観ているとどっちがどっちだかわからなくなるほどです。




 非毛氈(ひもうせん)が敷かれた長いすの赤い色が舞台に映える、湯島天神の茶屋の場面での幕開きです。舞台は最後までシンプルですが、最後の湯島天神の薄暗い場面は美しい情景です。暗い中に梅のピンクの色が映えていて、大道具さんのセンスが光っていました。すてきなセット、ありがとうござます。

 また、芝居は時蔵の芸の細かさがきわだち、芝居をより身近に感じさせる仕上がりとなっています。時蔵さん、歌舞伎座では久しぶりの登場ですね。それにしても時蔵さんが演じる女方は、ビギナーのわたしとしては、玉三郎とは別の意味で一番だと思いましたが、みなさまはいかがでしょうか。

 とにもかくにも、みなさま、ステキなお芝居をありがとうございました。



★★★☆☆(2)新歌舞伎十八番の内 素襖落(すおうおとし) (12:35-1:28)
 二幕目はいわゆる松羽目物(まつばめもの)と言われるお芝居です。舞台が能のようなシンプルなお芝居です。これこそ「ザ・歌舞伎」とも言えるのですが、「歌舞伎十八番」ではなく、「新」のつく「新歌舞伎十八番」ということで、ビギナーにはハードルが高いかもしれません。そのため三つ星としました。松羽目物入門として観ておいてもよいかもしれません。有名な「勧進帳」もこの松羽目物ですし。

 富士山が描かれた「黎明富士(れいめいふじ)」の素晴らしい緞帳が上がって、お芝居はスタートとなります。舞台一面が木の色の一色となり、後ろに大きな松が描かれています。松羽目物の特長です。能のスタイルを取り入れた様式で、ちょっとした緊張感が心地よいです。

 流れるBGMは「片しゃぎり(かたしゃぎり)」という音楽で、笛と太鼓のシンプルな伴奏です。松羽目物はこの片しゃぎりでスタートすることが多いとイヤホンガイドで教えてくれました。ビギナーはぜひ覚えておきましょう。ということもイヤホンガイドで丁寧に解説してくれますので、松羽目物はイヤホンガイド必須です。絶対に借りてください。舞台がシンプルなだけに、真剣に観ても理解できない点が多いため多いので、イヤホンガイドは暗闇を照らす懐中電灯の役目を大いに発揮してくれます。




 たとえば、太郎冠者役の松緑が、使いとして主人の大名の伯父のもとを訪れることから物語は始まりますが、「伯父の家に行ってこいといわれた場面」と、「伯父の家に着いた場面」の句切りが、舞台が変わらないため、さっぱりわかりません。この間、太郎冠者は舞台はぐるりと一回りするのですが、これが場面展開なのです、とイヤホンガイドでは解説してくれていました。「松羽目物は時空を超えます。舞台をぐるりと回ると一回しましたが、これで時間が流れるの現しているのです」というような感じです。勉強になりますよね!

 今回主役の太郎冠者は松緑が演じますが、松緑の顔が目がクリっとしてとても可愛らしい感じ。文楽人形のような愛嬌を感じられます。松羽目物では、お酒を飲むシーンがなぜか多いのですが、今回も首を振ってお酒をグビグビおいしそうに飲む姿を観ることができます。勧進帳の弁慶が酒を飲むシーンも同じですよね。ほか、素襖(すおう)という上着を奪い合うやりとりも滑稽です。ビギナーのわたしはこの2点が気になったお芝居でした。

 松緑のほか、亀蔵、巳之助、種之助、團蔵と若手からベテランまでの布陣で引き締まったお芝居となっています。しかし、とにかく舞台に変化がないので、ズバリ、ビギナーには眠いと思います。でも眠っても全然オッケー。時々目を覚まして、そのときに観た場面を断片的に覚えておくだけでも十分だと思います。断片を継ぎ足すとひとつのものになりますしね。みなさま、素晴らしいお芝居、ありがとうございました。





★★★☆☆(3)花街模様薊色縫 十六夜清心 (1:58-3:15)
 昼の部最後は、河竹黙阿弥の作品である「十六夜清心(いざよいせいしん)」です。歌舞伎の人気演目の一つですので、ビギナーは必見です。歌舞伎座では久しぶりの上演ですので、まだ観たことのないビギナーはぜひこの機会を逃さずにチェックしておきましょう。そのわりに評価が三つ星なのは、ストーリーの展開が緩慢で眠たい場面が続くためです。ビギナーにはちょっと酷なお芝居かも、ということで三つ星にしています。

 十六夜(いざよい)という遊女と、清心(せいしん)という僧侶の恋の物語なのですが、お芝居は隅田川の船着き場でのいきなりの心中場面から始まります。清元(きよもと)が奏でる演奏をバックに、清心演じる菊五郎と十六夜演じる時蔵が入水するまでの場面を演じます。

 しかし、この場面が長い…。舞台もどんよりと暗い照明で、長い間二人がセリフのやりとりが続くので、ビギナーはかなりきついでしょう。まわりを見渡すと気持ちよさそうに船を漕いでいる人が多数観られました。それにしても、入水までの二人のやりとりは、よくもこんなにねちっこく長々と続くものだな、と感心する一方で、さすが、河竹黙阿弥、と一本とられた感じもしました。幕末の殺伐とした庶民の雰囲気を暗に表現したものなのでしょうか。

 このお芝居で印象的だったのは、清元が高い声で唄う場面です。「いまさら言うのもぐちなら~」。清元の聞かせどころとのことです。男性がハイトーンで唄うのを聞くと、もの哀しさが倍増しますが、この高く唄うのが清元の特徴でもあって、「カン」というそうです。イヤホンガイドで教えてもらいました。

 清心を演じる菊五郎が熱演しています。後半で恋塚求女を殺めてしまったあとに、「しかし、待てよ…」というセリフが有名ですが、そのころになると、はだけたおなかが、汗まみれになっているのに気づきました。このお芝居、あまり動きはなく緩慢な印象なのですが、役者さんには大変な重労働なのでしょう。その重労働ぶりを感じさせないのが、さすが、菊五郎さんですね。プロです。プチ感動しました。もちろん、十六夜役の時蔵さんが引き立てているということもありますからね。そのあたりをぜひご注目いただきたく思います。

 そして最後は世話だんまりで幕となります。このだんまり部分が、このお芝居で一番、歌舞伎らしい、江戸幕末の雰囲気を楽しめる場面かもしれません。あれよあれよという間に幕となりますが、この「これで終わり?」感も、黙阿弥にやられた感じです。このお芝居は、最初はのんびりしていて眠気との戦いですが、後半の20分は寝てはいけません。眠らないように体をつねって、だんまりを楽しみましょう。絶対にたのしめるお芝居ですから。みなさま、楽しいお芝居ありがとうございました。





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