新年らしい贅沢でお得な四幕!「壽初春大歌舞伎大歌舞伎(2019)」(昼の部)初心者向けオススメ度の星評価!

 好評の歌舞伎初心者向け、オススメ度の星評価表!!現在東京・歌舞伎座で公演されている「壽初春大歌舞伎」(昼の部)の初心者向けのオススメ度表です。★が多いほど必見です。満点は★★★★★。公演会場での「盛り上がり度」、「眠っている人度」、「口コミ度」などを総合的に判断しました。★:オススメ、☆:イマイチ

<昼の部>
★★★★☆(1)舌出三番叟(11:00-11:29)
★★★★☆(2)吉例寿曽我(11:54-12:29)
★★★☆☆(3)廓文章 吉田屋(12:59-1:49)
★★★☆☆(4)一條大蔵譚(2:09-3:34)




【総評】
・総合点★★★★☆
 平成最後の正月の歌舞伎、壽初春大歌舞伎、昼の部は四つの演目です。ビギナーが観た方がよいか、観て楽しいかという視点からすると、堂々の四つ星です。新年によく演じられる三番叟(さんばそう)という舞踊と、曽我物(そがもの)というお芝居が楽しめますので、歌舞伎の正月がどういうものか感じられると思います。さらに、「廓文章」「一條大蔵物語」と典型的な歌舞伎のお芝居も楽しめますので、歌舞伎初心者でも納得いただける構成となっているでしょう。なにより新年早々、四つの演目が楽しめるのはお得です。

 ★が一つ足りないのは、ビギナーからすると、後半の2芝居が眠ってしまう危険度大のためです。とくに最後の「一條大蔵物語」は、後半にストーリーが急展開しますので予習は必須。しっかりと人間関係と源氏・平氏の関係を把握して臨みましょう。そして、ぜひ1年の始まりの特別な歌舞伎をビギナーも楽しんで、ことしから歌舞伎ライフをはじめてみませんか?





【演目ごとの講評】
<1月5日の観劇記録です>
★★★★☆(1)舌出三番叟(11:00-11:29)
 昼の部の最初はお祝いの舞踊となる「舌出三番叟(しただしさんばそう)」です。この「三番叟(さんばそう)」というのはお祝い事の舞踊とのことで、新年にはよく披露される踊りです。ビギナーは「さんばそう」という単語を覚えておきましょう。

 昼の部は入場すると富士山の緞帳がさがった状態での開演待ちとなります。これもお正月らしいですよね。この緞帳は「黎明富士」という名称の緞帳です。いたるところで写真を撮る姿がみられました。

 さて、「片シャギリ」という舞台音楽が流れる中緞帳が上がると、中央に大きな松が描かれた一面木目の舞台が眼前に広がります。木の茶色が舞台の照明に映えてとても美しく見える瞬間です。このような舞台を「松羽目物(まつばめもの)」といいます。歌舞伎の代名詞とももいわれる「勧進帳」もこの松羽目物の舞台で繰り広げられますね。




そうして、舞台には三番叟と千歳(「せんざい」。「ちとせ」ではありません)が並んでおり、それぞれの舞踊が始まります。ときおりコミカルに踊る立役の三番叟は芝翫、しっとりと踊る女方は魁春というベテランです。いや、この二人のベテランの踊りから開幕とは、さすが歌舞伎座。贅沢な演目です。もっとも、若手は新春浅草歌舞伎に出演中のためなのかもしれませんがね。

 芝翫のきびきびとした三番叟の踊りのあと、魁春の艶やかな踊りが続きます。いや、魁春の着物の美しいこと。ピンク色の着物が正月気分を盛り上げておりました。この二人はベテランだけに踊りの動きに無駄がなく、とても安定した舞踊を楽しむことができるでしょう。舞踊モノ、所作事はビギナーも難しいことを考えずに観られますのでよいですよね。

 そして最後は「天地絵面の見得」でしめとなります。正月の幕開けにふさわしいお祝いの舞踊ですので、ビギナーも幕見でぜひご覧ください。




★★★★☆(2)吉例寿曽我(11:54-12:29)
 そして二幕目はお芝居です。江戸時代、新年には「曽我物(そがもの)」「曽我狂言」という演目を演じることにならってのお祝いのお芝居です。こちらは舞台にさまざまな役柄の役者さんが一同に会して、とても豪華絢爛な舞台を堪能できるでしょう。まさに「歌舞伎の典型例」を観ることができますので、ビギナーは絶対にみないとなりません。

 曽我物の中でも一番有名でよく演じられるのが「寿曽我対面(ことぶきそがのたいめん)」ですが、今回は「吉例寿曽我(きちれいことぶきそが)」という演目が演じられます。短いお芝居ではありますが、それりにストーリーはありますので、ビギナーは予習して内容を把握しておくことをオススメします。セリフが昔っぽいですので聞き取るのが困難ですので、イヤホンガイドは必須です。

 どんなストーリーかと端的に言いますと、ズバリ「親を討たれた息子の二人兄弟が、復讐のためにその敵(かたき)に会いに行って、そこでやっつけようとおもったが、その場ではかなわず、別の場所で会う手形をもらった」という内容のお芝居です。親を討ったのが工藤祐経(くどうすけつね)、その親の敵を討とうとしている兄弟が曽我箱王(はこおう)と一万(いちまん)です。

 この演目では、幕が開くと正月らしく、羽子板をもった腰元らと商人(あきんど)が会話をする場面から始まります。そして浅葱幕(あさぎまく)ではなく、塀と遠くに富士山が描かれた「道具幕」が切って落とされると、舞台上にずらりと役者さんが並んだ場面となってお芝居が始まります。幕が落とされた瞬間のきらびやかな場面をぜひお楽しみください。




 「寿曽我対面」とは違い、このお芝居は舞台一面が雪の場面となっています。そのため、黒衣(くろご)にまざって、全身白い「白衣(しろご)」が観られるのがレアですよね。そうして花道からは、敵を討つ兄弟の箱王こと芝翫と、一万こと七之助が登場します。

 弟である箱王役の芝翫の血気盛んなところに注目です。落ち着いた七之助とはまったく別のキャラで、会場からも笑いが起きていました。熱演です。まさに芝翫の思うツボでしょう。

 そして注目は福助です。「寿曽我対面」では、御簾があくと怖い顔をした工藤祐経が現れるのですが、このお芝居ではその妻の梛の葉(なぎのは)が現れるのですが、その役が長いこと病気で療養していた福助です。今回、舞鶴を演じる児太郎のお父さんでもありますよね。昨年にも1度出演していましたが、今回は復帰2回目です。会場からは大きな拍手がわいていました。

 前回は座ったままでセリフもほんのちょっとでしたが、今回は立っていた!そしてセリフも多い!ビギナーならずベテランの歌舞伎ファンも大感激の様子でした。福助さん、引き続き活躍を期待しております。

 このお芝居は登場人物がとても多いのでお得な感じがします。おまけにお正月気分を味わえますので、ビギナーもぜひこの年に一度の曽我物を楽しめる機会を逃さないよう、幕見席をチェックください。みなさま、すてきなお芝居をありがとうございました。




★★★☆☆(3)廓文章 吉田屋(12:59-1:49)
昼の部の三幕目は、遊女夕霧(ゆうぎり)と大店(おおだな)の若旦那、伊左衛門との恋のやりとりを表現したお芝居、「廓文章(くるわぶんしょう)」です。通称「吉田屋」としてよく知られていて、歌舞伎座でもなんども演じられる演目です。これから歌舞伎を観続けていこうと思っているビギナーは是非ご覧ください。今後、なんども演じられることになりますので。☆が少ないのは、物語の展開が遅くて眠ってしまうからです。どちらかというと歌舞伎上級者向けのお芝居かもしれませんね。

 ストーリーはとてもシンプル。自分の恋心に気づいてくれなくてすねている伊左衛門と、それをなだめる遊女夕霧のやりとりです。このように、なよなよっとした男性を表現する演目を、上方和事(かみがたわごと)といいます。その昔、大阪での歌舞伎はこのようなテーストの歌舞伎が多い一方、江戸歌舞伎は、豪快で単純明快な荒事(あらごと)が多かったとのことで、その違いを楽しむ歌舞伎とも言えます。もっともこのお芝居はストーリーがわかりやすいだけに、油断するとすぐに眠ってしまいます。いや、絶対に眠ってしまうでしょう。眠たくなったときは、舞台上の大道具、小道具に注目しましょう。




 今回は伊左衛門を幸四郎、夕霧を七之助が演じています。幸四郎が和事に挑戦する、ということで注目を浴びていますよね。ビギナーの私は、伊左衛門を中村鴈治郎が演じるのを観たことがありますが、こちらはさすがに関西の人が演じていたので、どこか納得して観ることができました。今回の幸四郎の伊左衛門は、いかがでしょうかね。なよなよとした弱々しいさを演技しようという努力が伺えるところに注目いただきたいと思います。

 それにしても七之助の美しいこと。舞台に現れるのは芝居が始まってから30分が超えたあたりに出るのですが、七之助が出てくると、その美しさに会場がざわめきました。いや、観ているのも照れるほどの美しさでしたよ。ほか、脇を固めるのが歌六(東蔵が病気のため代役)、秀太郎と贅沢はベテラン陣の布陣です。

 眠たくなったら注目してほしいものが、伊左衛門がかぶっていたこたつ布団の模様です。真っ赤な縞模様が斜めにはいっているかなり奇抜なデザインですが、とてもおしゃれですよね。ここでも正月気分を味わえると思います。ビギナーのかたは、そのあたりにもぜひ注目してほしいと思います。 




★★★☆☆(4)一條大蔵譚(2:09-3:34)
 昼の部最後はこれも歌舞伎演目としてたびたび演じられる「一條大蔵譚(いちちょうおおくらものがたり)」です。ビギナーとしては、これもこの機会にぜひ観ておいた方がよいでしょう。なんども上演されておりますので、ここで観ておくと次回の役者さんとの違いがわかり、芝居の見方に幅がでますので。これも☆が少ないのは、やはりちょっと、いえ、かなり眠たくなってしまう場面が多いため、ビギナーには苦しい時間があるのでは、と思ったためです。

 ストーリーは、シンプルではありますが、背景をしっていないとさっぱりわからなくなります。しっかりと予習をして人間関係を把握しておきましょう。ポイントとしては、どちらが平家方で、どっちが源氏方なのかを軸に把握しておくとわかりやすいです。この物語は、平家に破れた源氏の残党が、平家を滅ぼし源氏の再興を祈る、という物語です。最低限、これさえ把握しておけば、フォローできるでしょう。芝居がはねた後、ちかくの座席からは「ぜんーぜんわからなかった」といいう女性の声が聞こえました。たしかに予習なしだと難しいと思いますので、しっかりと予習をしてのぞみましょう。

 主役は、一條大蔵卿。白鸚がなんと、昭和47年12月に演じて以来の役をこなします。ビギナーのわたしは、以前に吉右衛門が演じる一條大蔵卿を観たことがありますが、いやまあ、おふたりのそっくりなこと。さすが兄弟ですよね。印象としては、吉右衛門の大蔵卿の阿呆ぶりのほうが白鸚よりも一枚上手、という気もしましたが、白鸚の大蔵卿は上品な阿呆、という感じでした。阿呆阿呆と失礼なことを連発していますが、このお芝居の見どころは、阿呆の振りをしている大蔵卿の演技が注目ポイントなのです。阿呆ぶりを観ていると、なんだか楽しくなりますよね。




 お芝居の前半はゆったりと流れますが、後半である大詰めでストーリーは急展開します。ここであたふたしている人が多く観られましたので、魁春が弓に興じているあたりから、からだをつねって眠らないようにしましょう。言い換えますと、ここまでは寝ていても全然オッケーということでもあります。

 このお芝居でビギナーが面白かったのは、冒頭の茶屋の場面の歌舞伎あるあるシーンです。よく歌舞伎の舞台では、冒頭が茶の場面からはじまり、そこにいる二人が秘密の話をするときに、店主にちょっとはずしてほしいとお願いすると、店主は「ではお二人でしっぽりとどうぞ」とお店番をまかせて外出してしまいます。「え、大事なお店を知らない人にまかせて、そんなに簡単に不在にしていいの?」といつも不思議に思いますが、まあ、江戸時代はそれだけおおらかな時代でもあった、ということなのでしょう。こういう視点からも歌舞伎は楽しめますので、ちょっとお芝居にあきたな、と思ったらそのようなことに注目するのはいかがでしょうか。

 ほか、このお芝居で気になった点は、一條大蔵の着物の柄です。白地に淡い紫でぼんやりと描かれている着物がすばらしいのです。もちろん白鸚の演技もすばらしいのですが、着物にも是非注目いただきたいと思います。みなさま、すばらしいお芝居、ありがとうございました。




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