麗禾・勸玄が登場!海老蔵も熱演「初春歌舞伎公演(2019)」(夜の部)初心者向けオススメ度の星評価!


 好評の歌舞伎初心者向け、オススメ度の星評価表!!現在東京・新橋演舞場で公演されている「初春歌舞伎公演」(夜の部)の初心者向けのオススメ度表です。★が多いほど必見です。満点は★★★★★。公演会場での「盛り上がり度」、「眠っている人度」、「口コミ度」などを総合的に判断しました。★:オススメ、☆:イマイチ

<夜の部>
★★★★★(1)歌舞伎十八番の内 鳴神(4:00-5:23)
★★★★☆(2)牡丹花十一代(5:43-6:02)
★★★★★(3)平家女護島 俊寛(6:27-7:42)
★★★★★(4)新歌舞伎十八番の内 春興鏡獅子(8:12-9:09)




【総評】
・総合点★★★★★
今年も新橋演舞場で歌舞伎を楽しめる季節となりました。滝沢歌舞伎ですっかり有名になった新橋演舞場ですが、正月は海老蔵もこの演舞場で歌舞伎公演を行なっています。ビギナーのみなさま、正月の歌舞伎は、歌舞伎座、新橋演舞場、浅草公会堂、そして国立劇場とみなければいけない歌舞伎がたくさんありますので、ぜひご注意ください。これらのチケットは例年11月ごろから発売されますので、よく覚えておきましょう。

 さて、新橋演舞場の初春歌舞伎公演です。公演が始まる12月には全公演チケットが完売となる人気の公演です。海老蔵人気、おそるべしです。長年の歌舞伎ファンにとっても一番チケットをとるのが難しいのが、この公演でもあります。困ったものかもしれません。

 ビギナーのわたしは、とくに海老蔵のファンということではありません。ビギナーのみなさんにぜひ歌舞伎を楽しんでもらいたい、歌舞伎の楽しさ、面白さをわかってほしいということでこの記録を残しています。しかし、そのような純粋な「歌舞伎エバンジェリスト」の視点からしても、この演目は五つ星です。満点です。いや、満点以上です。麗禾ちゃん、勸玄くんが出演しなくても五つ星です。それは、人気の演目、名作からビギナーが絶対に見ておくべき所作事なども含まれているためです。すでにチケットは入手困難ですが、おけぴなどでぜひチェックして、ビギナーのみなさまにもご覧いただきたく思います。




【演目ごとの講評】
<1月13日の観劇記録です>
★★★★★(1)歌舞伎十八番の内 鳴神(4:00-5:23)
 夜の部の一幕めは、歌舞伎十八番、いわゆる「おはこ」の鳴神(なるかみ)です。歌舞伎十八番は、18個も演目があるのでいつでも見られるだろうと思っているあなたは、本当のビギナー。歌舞伎の演目は18以上ももちろんありますので、なかなか演じられる機会がないのです。そのため、歌舞伎ビギナーは、「十八番」とつく演目はすぐにチケットを購入して観劇することをオススメします。レア度が高いのですから。ということでこの演目も五つ星とさせていただきました。 

 さて、平成最後の新橋演舞場の初春歌舞伎夜の部は、そんな十八番の鳴神で開幕です。幕が開くと、二人の坊主が舞台上で会話をする場面から始まります。お酒とつまみのたこ(かぶとずきん)を取り出してのちょっと滑稽なやりとりに場の雰囲気が和みます。このような演出は、舞台と観客の距離を縮めるのに最適ですね。

 ストーリーは鳴神上人と雲の絶間姫の二人で展開します。そんなに複雑ではないのですが、事前に内容を知っておいた方がより楽しめますので、みなさんしっかりと予習をして臨みましょう。どんな物語かと簡単に説明しましょう。鳴神上人は雨を司ることができる上人(しょうにん)ですが、ある出来事で朝廷に対してへそをまげてしまい、いやがらせとして世の中に雨が降らないようにしてしまいました。それは滝の中に雨を降らせる龍神を閉じ込めることで実現しているのです。




 さて、雨が降らずに困った朝廷は、この龍神を閉じ込めている鳴神上人をなんとか説得しようと、雲の絶間姫という、美しい姫を派遣します。イヤホンガイドによると、「朝廷による女スパイ」と言っていました。派遣された雲の絶間姫は、鳴神上人にお酒を飲ませたり、色香でかどわかしたりといろいろな手をつかって鳴神上人を落とそうとします。そうして、ついに雲の絶間姫は、鳴神上人のスキを見て、龍神を閉じ込めているしめ縄を切り落とし、龍神を解放させて雨を降らせることに成功したのでした。

 配役は、鳴神上人を市川、雲の絶間姫を児太郎が演じます。あれ?児太郎さん、今月は歌舞伎座でも出演してますよね。「吉例蘇我対面」で舞鶴を演じているではありませんか。ははん。つまり午前中は歌舞伎座、午後は新橋演舞場でお芝居という「はしご」のようです。いや、大したものです。しかし、歌舞伎座から演舞場へはどのように移動するのでしょうか。近いから徒歩でしょうか。あるいは化粧を落とす暇がないので、車で移動するのでしょうかね。。。

 話が横道にそれましたが、右團次の鳴神、児太郎の雲の絶間姫は、適役です。とても立派で安心して見られます。右團次の堂々とした上人ぶり、児太郎の女スパイぶりは、ほんとうにぴったりです。児太郎は怪しい役柄がほんとうにお上手なのです。

 お芝居はストーリーの展開も早く、眠たくならずに楽しめると思います。とくに、鳴神を酔わせて、雲の絶間姫の体をさわる場面などは、いや艶やかなシーンです。江戸時代にはこんなシーンは、ピンク映画なみの衝撃だったのではないでしょうか。いまとなると滑稽で可愛らしい場面なのですけどね。

 そして、お芝居の最後、坊主が13人ずらりと一列に並んでそろって演技するのは圧巻です。そんななかで、「柱まきの見得」などが行われて歌舞伎っぽさを満喫できると思います。みなさま、楽しいお芝居ありがとうございました。





★★★★☆(2)牡丹花十一代(5:43-6:02)
 さあ、注目の2幕目です。このお芝居を目当てに全国の海老蔵ファンが集結、チケットが完売となってしまったのでしょう。「なとりぐさはなのじゅういちだい」と読みます。このお芝居は、第十一世市川團十郎の生誕110周年を祝う舞踊もの、所作事です。BGMは清元連中が演奏します。

 会場が真っ暗の中、パッと明るくなると舞台上には4組みの鳶(とび)と芸者の踊りが始まります。目にとても新鮮でとても美しい光景。ビギナーのわたしも幸せを感じる瞬間です。しばらく楽しそうな踊りが続くと、鳶役の海老蔵、右團次、芸者役の孝太郎などが出てきます。孝太郎が片岡家を代表して出演するなんて、市川家のお祝いを歌舞伎界全体で祝っている証拠ですよね。

 「待ってましたよ海老蔵さん」というような投げかけに、「待っているのは、ほんとうにおれのことかい?」という海老蔵のセリフで会場から一斉に優しい笑いと拍手がおきます。そうすると、花道から海老蔵の二人の子供、麗禾ちゃんと勸玄くんが登場、会場から割れんばかりの拍手が鳴り響きます。




 いや、こどもだから当然可愛いのですが、特別に可愛いですよね。だって、とくに勸玄くんは将来の歌舞伎界を背負っていく、つまり、4、50年後は團十郎を襲名するのですから、そのような背景を知ると自然と拍手する手に力も入るものです。そうして登場した二人のあとに、獅子舞が登場し、最後に舞台中央のはしごを模した台の上で、海老蔵、麗禾ちゃん、勸玄くんが並び、不動の見得で、会場は割れんばかりの拍手です。

 とくに印象的だったのは、海老蔵の表情。やさしそうな、余裕のある表情が明るい華やかな舞台で映えていました。20分たらずの演目でしたが、今後の歌舞伎界の明るいであろう将来を示すとともに、正月らしく楽しい気分にさせてもらえる演目でした。





★★★★★(3)平家女護島 俊寛(6:27-7:42)
 華やかな所作事の後は、重厚感のある芝居「俊寛(しゅんかん)」です。平家女護島(へいけにょごのしま)の中でも繰り返し演じられている演目です。有名な演目ですので、ビギナーは絶対にチェックしておくべきです。ストーリーもそんなに複雑ではなく、お芝居も楽しめると思いますし、歌舞伎ファンとしては覚えておくべき名セリフもありますので、必見の五つ星としました。

 ストーリーは、平家討伐の企みが失敗して鬼界島(きかいじま、現在の硫黄島)に島流しにあった、俊寛僧都(しゅんかんそうず)、丹波少将成経(たんばのしょうしょうなりつね)、平判官康頼3名の物語です。この3年の間に、成経は島の海女の千鳥と恋をし、夫婦になり、4人が仲良く暮らしていました。

 島流しから3年がたったそんなある日、なんと恩赦によるお迎えの船が島に到着します。俊寛らはもちろん3人全員が赦免されるかと思っていたのですが、赦免の対象は二人だけで俊寛ははいっていない。話が違うじゃないかと、赤っ面の瀬尾と争ったあとに、俊寛もやっぱり赦免の対象になっている、というのが判明しました。その過程で、本国に残してきた俊寛の妻は死んでしまったと衝撃の事実を知らされるのです。




 そして、船に乗れるのは3人だけ。失意のどん底に突き落とされた俊寛は、3人を船に乗せて自分が島に残ることに決め、離れ行く島を岩の上から見送るのでした。

 度重なる「ガーン」に遭遇する俊寛の心理をどう表現するかに役者の力量が試されるお芝居です。近松門左衛門の作品で、現代にも通じる人間の本性を表現したお芝居とも言われますね。今回は海老蔵は初役とのことですが、いやいや立派に演じていました。なんだ海老蔵さん、やはり立派な役者じゃないですか、と改めて認識させられました。

 ところで最近の歌舞伎界ではちょとした「俊寛ブーム」です。この5カ月の間に、国立劇場、歌舞伎座、新橋演舞場と3回もこの演目が演じられているのです。2018年9月の秀山祭九月大歌舞伎では吉右衛門が俊寛を、2018年10月の国立劇場の10月歌舞伎公演では、芝翫が俊寛を、そして今回の2019年1月に、新橋演舞場で海老蔵が俊寛を演じる、という具合です。

 そんな3人の俊寛をビギナーの私は観る機会に恵まれましたが、どの俊寛がよかったかといいますと、それは海老蔵です。繰り返しになりますが初心者のわたしは決して海老蔵ファンではありません。「朝日新聞夕刊」の演劇評での海老蔵に対する毎度の厳しい評価に、いつも納得しているような歌舞伎ファンです。ですが、それを差し引いても、海老蔵の俊寛は一番俊寛らしかった、と断言いたします。今回をきっかけに海老蔵を応援したくなりました。海老蔵さん、ありがとうございました。









★★★★★(4)新歌舞伎十八番の内 春興鏡獅子(8:12-9:09)
 夜の部の最後は、これも有名な所作事の春輿鏡獅子(しゅんきょうかがみじし)です。これもビギナーが見るべきかどうかという視点からして、堂々の五つ星としました。歌舞伎の所作事としてはとても有名で、最近はなかなか見る機会がないような気がします。

 所作事、舞踊なのですが、とにかくめまぐるしく舞台や物語が展開するので、結構面白い。あれよあれよという間に終わってしまいますので、ビギナーも楽しめることでしょう。この所作事は、絶対にイヤホンガイドを借りることをおすすめします。それぞれの踊りの意味するところがわかりますから、絶対に借りてください。

 見どころはやはり最後の毛振りの海老蔵でしょうか。そのちょっと前に踊る、二人のかむろという赤い着物をきた福太郎と福之助がこれまた素晴らしく、華を添えています。舞台後ろにずらり並ぶ長唄連中もとても素晴らしい演奏を聞かせてくれ、正月気分を味わえることでしょう。




 どれだけ目まぐるしく話が展開するか、ちょっとメモしましたのでご紹介しましょう。大雑把で、正確ではありませんが、雰囲気をお伝えできれば幸いです。

・幕開けは「しらべ」から。舞台には4人の裃姿の立役が登場。舞台上手には、鏡餅と黒茶色の獅子頭が二つ置かれた台が設置。
・舞台後ろは、青、赤、桃色の牡丹が大きく描かれた金襖(きんぶすま)。
・長唄連中がその金襖が左右に別れて登場。6挺6枚の演奏者たち。全員が三升(ミマス)の紋所の裃姿。
・そうして、海老蔵が舞台にひっぱりだされて現れる。腰元の姿の海老蔵は一礼をして、踊り始める。
・オレンジ色の袱紗(ふくさ)を小道具に、しっとりと踊る海老蔵。
・次に金色の扇(女扇)で踊りを始める。
・恋をした踊り、身振りのちょっと激しい踊りが印象的。
・再び女扇の踊り。「ちりちりちりちり・・・」
・赤い「砂子チラシ」の扇2枚で、牡丹の花園を表現する踊り。長唄の曲調は2上がり。2枚扇のみせどころ。
・獅子頭と差し金にあやつられる蝶のおどり。これは有名ですね。蝶は2羽。そうして花道からひっこみ。
・赤いかむろ役の市川福太郎、市川福之助が、舞台中央の長唄連中の中央が割れ、そのから赤い台にのってポーズをとって登場。かわいい。
・鞨鼓(かっこ)をつけて踊りはじめる。そうして鈴太鼓、振り鼓の踊り。二人の踊りがすがすがしい。蝴蝶の踊りのつなぎ。
・そうして獅子の現れに。大薩摩の力強い演奏がはじまる。獅子の出の前奏。「それ清涼山の石橋(しゃっきょう)は」大薩摩のソロ演奏「からくさ」が聞きどころ。
・太鼓と鼓を交互に感覚を置いて打つことで、露が牡丹の葉から滴り落ちる表現。奥ゆかしい静寂が心地よい。
・そうして、花道から獅子が登場。もちろん獅子は海老蔵。後見は片方の肩をはずした片外しの格好で、獅子の登場を準備。台に牡丹の花をセット。
・獅子は舞台にでてくるが、一旦花道からひっこんでしまう。
・そうして再度舞台上に獅子が登場。この日の海老蔵は、赤い隈取りがちょっと荒々しい印象。時間がなくてあわてて隈取りをつけたのかな?
・福太郎、福之助が蝶となって登場。袖が水色の着物で、獅子にとまる様を表現。
・さあ、そうして舞台下手から毛振りを開始。舞台中央で、左右に蝶を踊らせて、中央で毛振り。豪快に毛振り。ちなみに、左から毛振りをすると、左巴(ひだりともえ)、右から振ると右巴(みぎともえ)。
・上手に台が移され、台の上で毛振り。下手で2羽の蝶が待っている。そうして幕。

 どうですが、こんなにたっぷり味わえる舞踊もの、とてもお得だと思いませんか?もちろん今回の主役は海老蔵ですが、立派に踊っていました。海老蔵はさすが江戸歌舞伎の正当な後継者でもありますので、こういう荒々しい展開にぴったりはまりますよね。長くなりましたが、ぜひ機会がありましたら、ご覧ください。みなさま、素敵な舞台をありがとうございました。




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