仁左衛門と男白浪!「三月大歌舞伎(2019)」(夜の部)初心者向けオススメ度の星評価!


 好評の歌舞伎初心者向け、オススメ度の星評価表!!現在東京・歌舞伎座で公演されている「三月大歌舞伎」(夜の部)の初心者向けのオススメ度表です。★が多いほど必見です。満点は★★★★★。公演会場での「盛り上がり度」、「眠っている人度」、「口コミ度」などを総合的に判断しました。★:オススメ、☆:イマイチ

<夜の部>
★★★★☆(1)近江源氏先陣館 盛綱陣屋(4:30-6:15)
★★★☆☆(2)雷船頭(6:45-7:03)
★★★★★(3)弁天娘女男白浪(7:23-8:33)




【総評】
・総合点★★★★☆
 平成31年三月大歌舞伎(夜の部)の初心者向け星評価は、昼の部に並び四つ星としました。その大きな理由は、「弁天娘女男白浪」が演じられるためです。歌舞伎ビギナーからすると、「え?これが歌舞伎?」と思う人が多いと思いますが、この世話物歌舞伎の楽しさが味わえるこの演目はぜひみるべきです。みなさま、幕見席で何度でもご覧下さい。

 夜の部のビギナーにとっての難関は、一幕目の「盛綱陣屋」でしょう。この演目はとても有名ではありますが、いわゆる「ザ・歌舞伎」。どちらかというと歌舞伎上級者向けの演目だと思います。人間関係が複雑な上に大きな動きもあまりなく、きちんと予習して把握しないと絶対に寝てしまいますのでご注意ください。といいますか、このお芝居は何度も観ることでその奥深さを理解できる演目ですから、ビギナーは寝てもしょうがないと思います。起きているときにしっかりとフォローすることに注力しましょう。繰り返しになりますが、予習は絶対に必要です。

 とはいいましても、歌舞伎の重要なエッセンス、小道具がもりだくさんですので、ポイントをつかむととても興味深いお芝居だということを理解できると思います。ビギナーとしては、小道具の「首桶(くびおけ)」「鎧櫃(よろいびつ)」、テーマとしては「忠義と親子の愛情のどちらを優先するか」などに着目しておきましょう。

 二幕目の「雷船頭」はいや楽しい。楽しいと思っているうちに終わってしまうので、じっくりと味わってほしいと思います。





【演目ごとの講評】
<3日初日の観劇記録です>
★★★★☆(1)近江源氏先陣館 盛綱陣屋(4:30-6:15)
 三月大歌舞伎夜の部は、重厚な「盛綱陣屋(もりつなじんや)」でスタートです。とても有名な演目でたびたび演じられています。今回は盛綱を人間国宝の片岡仁左衛門がつとめています。人間関係がとても複雑なお芝居ですのでビギナーにはハードルが超高い演目かもしれませんが、このハードルをがんばって乗り越えて、中級者、そして上級者へと羽ばたいて欲しいと思います。

 ズバリこんなお話しです。「佐々木盛綱(もりつな)と佐々木高綱(たかつな)は、もろもろの理由により兄弟にもかかわらず敵味方に分かれて戦っています。そんな戦の中、盛綱の子供の小三郎は、高綱の子供の小四郎を生け捕りにすることに成功。小四郎は盛綱の家にいます。そんな中、盛綱は母の微妙に自分の甥っ子にあたる小四郎に切腹するよう説得してほしいと頼みます。それは、小四郎が切腹して自ら命を絶つことで、高綱の命を守ることになるためです。そんなこんなしている中に、なんと高綱の首を取ったと北条時政が現れます。そして、その首が本当に高綱の首かと盛綱が見ると、なんと高綱の首ではない! と思ったら、小四郎がお父様といって切腹して死んでしまいます。それは、とった首が高綱だと思わせることで、どこかで生きて居るであろう高綱を生き延びさせることが狙いだったのです」

 かなりおおざっぱでちょっと違う点があるかもしれませんが、だいたいこんな感じだと思います。
ストーリーを抑える上でのポイントは下記です。
・盛綱の子供が小三郎
・高綱の子供が小四郎
・小四郎は、父である高綱の首が別人だとわかったけど、それは「高綱です」とウソをつくことで高綱を守った
というところとも言えます。

 ここまでかみ砕くとストーリーが簡単のように思えるかもしれませんが、これを主軸としてお話しが進みますので、ビギナーは油断せずにしっかりと予習しておきましょう。眠ってしまうトラップはたくさんありますので心して観て下さい。

 さて配役は、繰り返しになりますが盛綱を片岡仁左衛門、小三郎を寺嶋眞秀(まほろ)。まほろちゃんは、寺島しのぶの息子さんですね。そして小四郎を勘太郎。勘太郎ちゃんは、中村勘九郎の息子さんです。ほか、千之助が四天王の一人。この千之助は片岡仁左衛門の孫です。いや3巨匠の孫が一堂に会するという、きわめてレアな舞台とも言えます。

 見どころは、高綱の首がほんとうに高綱か、と調べる首実検のときに盛綱こと仁左衛門が見せる表情です。「おや」っと驚いて「まてよ、へんだな」といぶかしがり、「そうかなるほど」と納得し、「あっぱれ小四郎」と感動する、ということを短時間で顔で表現するのです。この瞬間はオペラグラスで仁左衛門の顔を注視しましょう。まばたきも厳禁です。

 そして、勘太郎ちゃん、眞秀ちゃんは初日にもかかわらず元気にセリフを発していました。小四郎こと勘太郎ちゃん、切腹したあとの冒頭でちょっとセリフを間違えましたが、後ろの先輩たちが小さな声でセリフを誘導していました。ほほえましい場面でした。

 また、このお芝居でも孝太郎は脇で重要な役割をこなしていました。浅葱色の着物が舞台に映えていました。今月は昼の部もそうですが、孝太郎にも注目ですよ。

 そうして最後は絵面のひっぱりの見得で幕となります。ビギナーにはハードルが高いかもしれませんが、なんども観ることでディープな歌舞伎ファンへの道を歩みましょう。みなさま、重厚なお芝居をありがとうございました。





★★★☆☆(2)雷船頭(6:45-7:03)
 夜の部二幕目はとても短い舞踊ものです。長さはおよそ20分。内容は、タイトル通り「雷さん」と「船頭」が登場しての踊りです。あまりにも短くて、もうちょっと観たい!と思いましたので三つ星としました。雷さんの豪快な動作が歌舞伎座っぽくないような気もしましたが、これも歌舞伎。とても楽しく観させていただきました。

 開幕前、会場が真っ暗になります。暗闇恐怖症のかたは叫び出すような暗闇です。暗闇からパッと明るくなると、へさきのとがった猪牙船(ちょきぶね)を船頭が現れます。演奏は常磐津の3挺4枚の演奏団。雷さんの激しい踊りを、常磐津の上品な演奏がコントロールしているような印象ではありました。そうして船頭8名が出てきての踊りです。

 船頭役の猿之助の落ち着いた踊りが印象にのこる舞踊ものでした。直前の実盛物語の重さをいっそうするようなお芝居で、肩のこりもとれた気がします。みなさまありがとうございました。





★★★★★(3)弁天娘女男白浪(7:23-8:33)

 三月大歌舞伎の最後は、人気の歌舞伎演目「弁天娘女男白浪(べんてんむすめ・めおのしらなみ)」です。登場人物が多いのですが、ストーリーは単純ですのでビギナーも力まずに楽しめるお芝居です。河竹黙阿弥の作品で、とても有名でかつ、とても楽しいお芝居でもありますので、堂々の五つ星としました。ビギナーは絶対に観る必要のある歌舞伎演目ということになります。

 ストーリーは「呉服屋をだましてお金をせしめようと、女装した盗賊の弁天小僧菊之助と、南郷力丸がお店に行くが、男であるのがばれてしまい計画は失敗。しかしそこで開き直ってもまだお金をせしめようとする」というお話しです。弁天小僧は、奇数日と偶数日で配役が違います。奇数日は幸四郎、偶数日は猿之助が演じます。初日は幸四郎でした。

 弁天小僧は、自分の懐にある鹿子(かのこ)の裂(きれ)を、物色しているお店の商品に落として紛らわせて、それからそのキレを懐にしまいます。ここで店員が万引きだと気づくことでストーリーは展開していきます。ぜひ、冒頭のこのキレを落とす場面からオペラグラスでチェックしましょう。するとよりストーリーに入り込みやすくなると思います。

 この幕ではイヤホンガイドもとても楽しく解説しています。担当は「おくだ健太郎」さんです。ビギナーのわたしの一番のひいきの解説者です。おくださんによるとこの演目は「ばれる・いばる・自己紹介」のお芝居だということです。たしかにそうですよね。自己紹介のときは、傘を片手に花道にずらり並んでまさに美しい場面が展開されます。

 そうして最後には浅葱幕が切って落とされると稲瀬川(いなせがわ)での立ち廻り。とても楽しい世話物歌舞伎を体験できると思います。

 配役は、弁天小僧に幸四郎、力丸に猿弥、清次に猿之助と安定した布陣です。ビギナーのわたしは弁天小僧を海老蔵が演じる幕も観たことがありますが、うーん、海老蔵のほうが男と女のギャップが明確でより楽しかった印象です。幸四郎はどちらかというと、あらあらしい盗賊、というイメージからは遠いですものね。みなさま楽しいお芝居、ありがとうございました。



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