「鯉つかみ」は必見!「吉例顔見世大歌舞伎(2017)」(昼の部)オススメ度の星評価!


 好評の歌舞伎初心者向け、オススメ度の星評価表!!現在、東京・歌舞伎座で公演中の「吉例顔見世大歌舞伎」(昼の部)の初心者向けのオススメ度表です。★が多いほど必見です。満点は★★★★★。
公演会場での「盛り上がり度」、「眠っている人度」、「口コミ度」などを総合的に判断しました。
★:オススメ、☆:イマイチ

<昼の部>
★★★★★(1)湧昇水鯉滝 鯉つかみ(11:00-12:14)
★★☆☆☆(2)奥州安達原(12:49-2:16)
★★★★☆(3)雪暮夜入谷畦道 直侍(2:41-3:45)




【総評】
・総合点★★★☆☆
 総合点で標準の三つ星としました。ビギナーも予備知識なしでも十分楽しめます。一幕目の「鯉つかみ」は歌舞伎座初登場とのことですが、舞踊あり、立ち回りあり、動物(魚)の登場ありと、とにかく面白い。歌舞伎の醍醐味が詰まっていますのでビギナー必見です。二幕目の「欧州安達太良原」は名作でよく演じられるのですが、動きが少なくビギナーにはハードルが高いかも。三幕目の「雪暮夜入谷畦道 直侍(なおざむらい)」は、世話物の傑作で、江戸の風情がよく伝わってきますので、ビギナーにはぜひ観ていただきたい演目です。





<11月3日の観劇結果です>
<昼の部>
★★★★★(1)湧昇水鯉滝 鯉つかみ(11:00-12:14)
 文句なしの五つ星! この演目を観ずしてなにを観ましょう。ビギナー必見です。ストーリーも楽しくてわかりやすく、可愛い鯉くんも登場して、飽きることはありません。ストーリーの概要です。小桜姫(こざくらひめ)というヒロインが滝窓志賀之助(しがのすけ)に恋い焦がれていると、本人が現れた!と思ったら、それは偽物で実ハ滝窓志賀之助に化けた鯉の化身。そうこうするうちに本物の本人もでてきて、偽物と本人が鉢合わせ。最後に化けていた鯉が本性を現して鯉の姿となり、水の中で激しく格闘。というストーリーです。とてもわかりやすい。「龍神丸」という宝の刀がアイテムで出現したりと、歌舞伎の様々な要素が凝縮されていて楽しめること間違いありません。

 配役は、滝窓志賀之助に染五郎、小桜姫に児太郎の若手コンビ。児太郎は最近は化け猫などの妖しい役が多いのですが、今回は、か弱いお姫様を好演しています。冒頭には長唄と竹本の掛け合いをバックに、ふたりの舞踊ものがあり、染五郎が扇を起用に使っているのが心地よいです。ここでビギナーはうたた寝をするかもしれませんが、滝窓志賀之助が二人登場するあたりから急展開、寝ているヒマはありません。どんどんストーリーが展開しますので、油断しないようにしてください。

 そして、見どころは染五郎の早変わり。あれよあれよというまに入れ替わっているのです。狐につままれたとはまさにこのことです。そして、鯉の登場。鯉の顔は正面から観るとちょっと情けなくて、可愛すぎ!注目してください。あと、見事なのは障子に写った影絵。詳細は書きませんがぜひ注目してください。どのように写しているのでしょうか。

 最後は水がバシャバシャするなかでの鯉と滝窓志賀之助の立ち回りです。1階最前列の方まで水が飛んでいました。イヤホンガイドによると、江戸時代は花道でもバシャバシャしたので、夏の暑いときに演じられた演目とのことです。USJのようなテーマパークでのスプラッシュ感覚だったのですね。ぜひ、歌舞伎座でスプラッシュを体感してください!




★★☆☆☆(2)奥州安達原(12:49-2:16)
 ふーむ。これは重厚。名作なのですがビギナーにはハードルが高い印象です。義太夫モノ(浄瑠璃モノ)のため、舞台での役者の動きが少なくセリフも多くて、漠睡するビギナー続出の予感です。

 ストーリーも若干複雑で、予習しておかないとなにがなんだかわからないでしょう。こんなストーリーです。駆け落ちした盲目の袖姫(そでひめ)が父の平傔仗直方(なおかた)に会いに実家にもどりました。父が切腹すると聞いためです。切腹の理由は、帝の弟環宮(たまきのみや)が行方不明になった責任を父の直方がとらされるためです。しかし、直方はわざわざ会いにきてきてくれた娘に会おうとしません。なぜなら、娘が駆け落ちした相手は、直方の敵方の安倍貞任(あべのさだとう)なのです。そうこうしているうちに安倍貞任の弟の宗任(むねとう)が現れて、袖姫に、父は敵なのだから殺すように迫ります。そうして板挟みになった袖姫は自害してしまいます。すると父の直方も、結局、環宮の行方不明の責任をとって切腹してしまいます。二人も切腹した人が舞台にいて、もうそれは大騒ぎ。

 そんな中、使いとしてやってきた桂中納言は切腹した直方の死を見届けて立ち去ろうとしますが、直方の主人である源義家が、この使者の桂中納言を、敵方の安倍貞任(さだとう)だと見破ります。ここで、義家と敵の安倍貞任、その弟の安倍宗任(むねとう)が対面し、対決しようとします。いきりたった弟、宗任を兄の貞任がなだめて大事にはいたらず、ここで対決はせず、戦場で会って対決することを約束する、という流れです。後半は寿曽我対面の十郎、五郎と工藤祐経のやりとりに似ていますね。




 冒頭は、雪がちらほら舞い、三味線がさびしくつま弾かれるなかで芝居が進行します。袖姫に雀右衛門、直方に歌六、直方の妻、浜夕に東蔵と安定した布陣です。とにかくこのシーンは動きが少ない。これは、この演目が義太夫もの(浄瑠璃もの)のためかもしれません。袖姫役の雀右衛門は、盲目のためずっと目をつぶっています。その中での熱演に感動しました。ずっとつぶっているので感心しました。薄目を開けて見えているのでしょうかね。途中、三味線も弾くという好演ぶりでした。そして、終盤になるとようやく貞任の吉右衛門が登場です。ここまで眠らなかったあなたは偉い!あとは、比較的早い展開で進みますので、最後の詰めを楽しめましょう。

 このお芝居で気になった単語は「袖屛風(そでびょうぶ)」。着物の袖を屛風にみたてて、怖い物を直接みないようにするようなことです。着物を着る機会があったら、ぜひお試しください。また、冒頭の雪の場面では、黒衣(くろご)さんが真っ白で、「白衣」さんになっていたのが新鮮でした。たしかに、床も白くて全体が白ですからね。

 この演目は名作ですので、ビギナーは一度はご覧いただきたい。途中で眠ってしまうのも歌舞伎の醍醐味ですので、ある意味歌舞伎の王道を体験できる演目かもしれません。お楽しみください。




★★★★☆(3)雪暮夜入谷畦道 直侍(2:41-3:45)
 「ゆきのゆうべいりやのあぜみち」と読みます。通称は直侍(なおざむらい)。世話物の名作で、よく演じられる演目です。歌舞伎座では、2016年1月の新春大歌舞伎で演じられていました。このときの直次郎(なおじろう)役は染五郎。江戸時代にタイムスリップした感覚を体験できる演目で、ビギナーとしてはおさえておきたい演目です。

 ストーリーはこんな感じです。お尋ね者の直次郎が、雪の降る中、そばやでそばを食べていると、按摩史の丈賀(じょうが)がやってきます。丈賀は、直次郎が惚れている三千歳(みちとせ)の按摩も担当していますので、お店をでてから三千歳の話などを聞きます。そののち、直次郎は三千歳に会いに行こうとしますが、その道中で、かつていっしょに悪事を働いたことのある丑松(うしまつ)と遭遇します。その場ではなにもなく別れたのですが、丑松は直次郎を密告して捕まえられることを企みます。そんなことも知らない直次郎は三千歳と久しぶりにあい、二人で逢瀬を楽しみます。そんななか捕物帳がはじまり、最後には直次郎は捕らえられてしまうのでした。物哀しいストーリーですね。




 配役は、直次郎に菊五郎、三千歳に時蔵、丈賀に東蔵、丑松に團蔵というベテラン揃いです。このお芝居、登場人物が少なくてストーリーも複雑ではないため、かなり安心して観られます。菊五郎の直次郎はまさにはまり役。火鉢をまたいで股間を温めながら一言せりふを語るシーンは、菊五郎のためにあるのではないか、と思ってしまうほどです。時蔵は久しぶりの歌舞伎座です。8月は国立劇場での「小学生のための歌舞伎体験教室」の講師を担当し、9月はオフだったとのことで、ご夫婦でヨーロッパを2週間旅行してきてオペラなどを鑑賞してきたようですよ。おしゃれですね。このお芝居では、登場して直次郎に会うシーンに注意を払っているとのことです。安定した演技が光っていました。丈賀役の東蔵は、最近は女形を多く演じていますが、今回は按摩の役。これも適役でした。團蔵は悪ぶりがよいですよね。とてもよい配役だと思います。みなさま、ありがとうございます。

 この演目のみどころは、「雪」と「回転舞台」でしょうか。直次郎が蕎麦屋をでると舞台が回転してお店の外のシーンに移り変わるシーンはとても自然で引き込まれます。消火栓の陰に直次郎が隠れるシーンなど、描写が細かく、江戸の風情を体感できると思います。直次郎と三千歳が逢瀬するシーンの後半では、動くたびにポーズをとって見得を切る、という場面がたびたびありますので、拍手のタイミングが難しかった。まさに「見得を切るオンパレード」ですので、ぜひ注目ください。

▼夜の部の報告はこちら

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