舞踊と芝居を楽しむ!「今様三番三・隅田春妓女容性」(12月国立劇場歌舞伎)オススメ度の星評価!


 好評の歌舞伎初心者向け、オススメ度の星評価表!!現在、東京・国立劇場で公演中の「12月歌舞伎公演」の初心者向けのオススメ度表です。★が多いほど必見です。満点は★★★★★。公演会場での「盛り上がり度」、「眠っている人度」、「口コミ度」などを総合的に判断しました。★:オススメ、☆:イマイチ

★★★★★(1)今様三番三(12:00-12:30)
★★★★☆(2)隅田春妓女容性 序幕(13:05-14:15) 二幕(14:40-15:35) 大詰(15:45-16:30)




【総評】
・総合点★★★★☆
 今月の国立劇場の歌舞伎はお得な二演目です。それも所作事(しょさごと。踊り演目)とわかりやすい世話物。初心者も楽しめると思いますので、四つ星としました。荒事のような「ザ・歌舞伎」ではないので、初心者には想定外かもしれませんが、バランスの良い演目です。並木五瓶の作品を知る上でもよいと思います。しっかりと予習して、ぜひストーリーを楽しんでください。席には余裕がありそうですので、国立劇場に行ったことのないかたもぜひ、足を運んでください。

 今回ちょっと残念なのが公演のポスター。大正昭和の昔っぽい趣を狙ったのかもしれませんが、ちょっといまいちの印象はありませんか? 前々回の仁左衛門の「霊験亀山鉾」のポスターがめちゃくちゃかっこよかったので、そのギャップに戸惑ってしまいました。平成30年の国立劇場歌舞伎のポスターに期待しましょう。





<12月10日の観劇結果です>
★★★★★(1)今様三番三(いまようさんばそう)(12:00-12:30)
 ビギナーのわたしは雀右衛門さんのひいきです。そして、又五郎さんのファンでもありますので、そのご子息らが脇を固めている演目に五つ星を与えないわけはありません。この「今様三番三(いまようさんばそう)」は、お祝いなどの時に演じられる「さんばそう(三番叟)」の種類です。普通は「三番叟」と言うことが多いですが、この演目は「三番三」となっておりますね。30分と短い演目ですが、ストーリーもあり、楽しめる所作事です。

 幕が開くと、一面の浅葱幕(あさぎまく)。その前で大薩摩の演奏とともに舞台が始まります。「パッ」と浅葱幕が切り落とされると、華やかな舞台が登場し、雀右衛門、歌昇、種之助が登場です。ストーリーとしては源氏の白旗をめぐってのお話です。箱根権現に収められた源氏の白旗がなくなります。若武者たちがその白旗を探していると、二ノ宮という女性に会い、その女は三番叟(さんばそう)という踊りを舞い始めます。二ノ宮がその白旗を持っているのがわかり、捕らえようとしますが、白旗を使って追いはらいます。この白旗をなびかせての踊りが続くという所作事になります。




 みどころは、白旗を上手にあやつって進行する踊りの場面です。ストーリーは気にせずに、三人の踊りを楽しみましょう。二ノ宮役の雀右衛門は、黒地に金色の横縞、中央に赤丸が描かれた派手な烏帽子(えぼし)をかぶっています。バブリーな帽子です。片手に白旗のはいったたらいをもって舞い始めます。三人の粋のあった踊りがとても心地よいです。そして、後半は長い白旗を使っての舞踊です。新体操の元祖ですよね。それも帯が太いのにうまく操って踊っています。とにかく見ていて楽しい所作事です。

 「ちゃぶ台返しの歌舞伎入門 (新潮選書)」(矢内賢二)には、「日本人はまじめだから、この踊りはこういう意味なのか、と考えながら観る傾向にある。意味がどうかは抜きにして、もっと気楽に楽しんでよいもの」というようなことを書いていました。この演目を観てまさにそう思いました。ひらひらまう白旗を、大人がおもしろおかしく操作したり、投げたりして遊んでいる、という演目は観ているだけで楽しく、難し考えずに目で楽しめる演目だと思います。

 いやそれにしても、雀右衛門さん、襲名からすでに2年たちますが、もうすでに貫禄がでてきました。「大雀右衛門」です。今後ますますの活躍に期待したいところです。ありがとうございました。





★★★★☆(2)隅田春妓女容性 序幕(13:05-14:15) 二幕(14:40-15:35) 大詰(15:45-16:30)
 「すだのはるげいしゃかたぎ」と読みます。「すみだ」ではなく「すだ」ですって。これは読めない(涙)。サブタイトルが「御存梅の由兵衛」(ごぞんじうめのよしべえ)。並木五瓶という脚本家が書いた傑作とのこと。人間関係が複雑なのですが、ちょっと把握するとそんなに難しくもないですし、楽しめました。世話物歌舞伎を知るという点からすると、ビギナーも難しく考えずに気楽に楽しめる歌舞伎ではないか、ということで四つ星としました。
<「隅田春妓女容性」人間関係図はこちら

 「梅の由兵衛」こと梅堀由兵衛と周囲の人間関係をめぐるヒューマンストーリーです。由兵衛は、支えている殿様(三島隼人)が紛失したという家宝の宝を探していますが、同時に、隼人の娘で芸者になった小三とその駆け落ちの相手の金五郎を助けようとしています。具体的には、小三を雇っている芸者宿にお金を支払って小三を引き取り(これを「見請する」という)、二人が幸せに暮らしてくれることで、世話になった三島隼人に尽くしたい、と思っているのでした。

 どび六という乞食に、小三と金五郎が騙されるなどいろいろと伏線がありますが、主筋としては、由兵衛が見請のお金をなんとか工面し、宝を探しだそうとする、というのが大きな柱です。その過程で、由兵衛が誤って妻小梅の弟、つまり自分の義理の弟である長吉を殺すなど、複雑にストーリーが絡んでいきます。そうして最後に、敵の源兵衛と一騎打ちして幕となります。




 みどころは、由兵衛が誤って長吉を殺してしまう場面、忠義のために家族を犠牲にしてしまう場面でしょうか。忠義と家族の板挟みにあった由兵衛の心情は、現代社会に通じるものを感じることができるのかもしれません。これは、まさに「寺子屋」と同じように、歌舞伎が得意とするテーマですね。そして、由兵衛の罪をかぶろうとする妻小梅。夫婦の愛情の機微も表現されています。

 主役の由兵衛は吉右衛門。紫の頭巾がきまっていました。年配のかたには、「鞍馬天狗の頭巾」というとわかりやすいのかもしれません。由兵衛と対する源兵衛に歌六、小三に雀右衛門、金五郎に錦之助、小梅と長吉の二役を菊之助、長吉の恋人役に米吉と安定した布陣です。そして、この演目一番の功労者がどび六役の又五郎。又五郎のちゃめっけある演技がこの芝居のスパイスとなり、引き締まったものとなって、ストーリーも入り込みやすくなっていました。よい役者さんです。ありがとうございました。

 そうして最後は、舞台にいる出演者5名が並んで正座して挨拶をして幕となりました。この終わり方、ビギナーとしてとても大好きです。「江戸時代ぽい」というか、「ありがとうございました」という役者さんの心の声が聞こえるような感じで、とても好感がもてます。次回、菊五郎の国立劇場芝居も楽しみにしたく思います。ありがとうございました。



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