日高川入相花王・傾城恋飛脚「2017年12月文楽鑑賞教室」オススメ度の星評価!


 好評のビギナー向け文楽公演のオススメ度星評価です。2017年12月の国立劇場では、文楽鑑賞教室と12月文楽公演の二つがありました。文楽鑑賞教室は大人気で、すぐにチケットが完売しました。もちろん12月文楽公演もしばらくして完売。東京での文楽人気は相変わらずですね。

 さて、まずは文楽鑑賞教室のオススメ度星評価です。東京・国立劇場小劇場で公演された12月文楽公演の初心者向けのオススメ度表です。★が多いほど必見です。満点は★★★★★。
公演会場での「盛り上がり度」、「眠っている人度」、「口コミ度」などを総合的に判断しました。
★:オススメ、☆:イマイチ

 今回の鑑賞教室は、文楽の基本を紹介する「文楽の魅力」をはさんで二つの演目でした。たしか、前回は一幕でしたので、お得な感じですね。ただ、二幕目の傾城恋飛脚(新口村の段)は、ビギナーにはちょっとハードルが高い感じです。近松門左衛門の「梅川忠兵衛(うめがわちゅうべえ)モノ」といわれる代表的な作品ではありますが、親子の心理劇ですので奥が深すぎる。人形の動きも極端に多いというわけではなく、周りには眠っている人が多数おられました。

 ビギナーとしては、鑑賞教室には同じく近松の「曽根崎心中」もしくは「女殺油地獄」を取り上げてほしいところです。教科書にでるほどの有名な演目ですし、何度見ても勉強になりますし、これこぞ「ザ・文楽」という演目ですから。ストーリーもそんなに難しくないですからね。次回、鑑賞教室の演目に期待したいところです。





<文楽鑑賞教室>
★★★★☆(1)日高川入相花王(ひだかがわいりあいざくら) 渡し場の段
★★★☆☆(2)解説 文楽の魅力
★★★☆☆(3)傾城恋飛脚(けいせいこいびきゃく) 新口村の段

<12月16日の鑑賞記録です>
【総評】
・総合点★★★☆☆
 ビギナーとして見た方が良いか、楽しめるかという視点からすると総評は星三つ。普通の評価です。

★★★★☆(1)日高川入相花王(ひだかがわいりあいざくら) 渡し場の段
 10分程度の演目で、ビギナーも気楽に楽しめると思います。水の上を人形が泳いでいるのも驚きです!そして、「ガブ」と呼ばれる一瞬にして鬼に代わる頭(かしら)を使っているのもとても興味深く観劇できると思います。清姫と渡守のやりとりも面白おかしく、楽しめるでしょう。

 ストーリーはこんな感じです。日高川の渡し場に清姫(きよひめ)がやってきます。そして年寄りの渡守に「舟を出して欲しい」と訴えます。清姫は、愛しい安珍(あんちん)が婚約者の女性と道成寺に向かったと知り、嫉妬に燃えて追いかけてきたのでした。もうすでに夜も遅いため、渡守は舟をだそうとしません。それに対して渡守に清姫は舟を出すようにしつこくせまります。渡守が舟をださないのは実は理由があります。先に川を渡った安珍から「あとから女性が後を追ってくるけど、舟を出さないで欲しい」とお金を渡されて頼まれていたのでした。

 渡守が舟を出さないとわかると、清姫はザブンと川に飛び込んで泳いで向こう岸に向かおうとします。泳いでいる途中に清姫は、大蛇に変身します。嫉妬の念が彼女を変身させたのです。そうして、向こう岸にたどり着いた清姫は、安珍の元に向かうのでした。

 「安珍さま~安珍さま~」という太夫の話しぶりかとてもおもしろく、途中で滑稽なシーンもありとても楽しめると思います。とても楽しめる理由の一つに、時間がとても短いから、というのもあるかもしれませんが。




★★★☆☆(2)解説 文楽の魅力
 文楽の基本をやさしく説明してくれる演目です。語りを担当する「太夫(たゆう)」、「三味線」、「人形」を説明してくれました。ビギナーとしては基本を抑えることができるででしょう。以前の鑑賞教室では、太夫のセリフをみんなで声を出して言う参加型の部分もありましたが、今回はありませんでした。この参加型、とても楽しいので是非復活させてほしいです。太夫のセリフを言ってみる機会など、ほとんどありませんからね。

 太夫さんのセリフの例は、今回は「ひらかな盛衰記」(義仲館の段)の初めにある、下記のセリフでした。

 「これはこれは思いのほか早いお帰り、そしてどうやらお顔持ちもすぐれず、早う様子が聞きましたい」

 この部分を男性が話すときと、女性が話すときの二つのパターンを演じていました。すんなりと語っていましたが、難しそう。難しそうに見えないところにプロの技を感じられました。みなさまも、ちょっと練習してみてください。





★★★☆☆(3)傾城恋飛脚(けいせいこいびきゃく) 新口村の段
 鑑賞教室の最後は、近松門左衛門の作品「傾城恋飛脚(けいさいこいびきゃく)」から「新口村の段(にのくちむらのだん)」が演じられました。親子の心理劇を描写した浄瑠璃ですので、ビギナーにはちょっとハードルが高いかもしれません。そのため、普通の三つ星としました。

 ストーリーは大まかにこんな感じです。忠兵衛は大阪の飛脚屋の養子としてまじめに働いていましたが、遊女の梅川に恋をしてしまいました。その梅川を引き取る(身請け)ためにお金が必要ですが、忠兵衛はなんと飛脚屋の公金に手を付けてしまいました。当時、飛脚屋はお金の運搬も行っており、お客のお金に手を出すのは言語道断。死罪にあたりました。そうして、梅川と忠兵衛の逃避行が始まるのです。

 逃げる二人は、忠兵衛の故郷である新口村に着きます。しかし人にあわせる顔がないため、屋内に身を潜め窓から外の様子をうかがっています。するとそこに忠兵衛の父、孫右衛門が通りかかりますが、雪で足を滑らせて転んでしまいます。その様子をみていた梅川はとっさに飛び出し、孫右衛門を介抱します。しばらくして、孫右衛門は介抱してくれた親切な人が梅川と気づきます。

 梅川は、いずれ死罪となる忠兵衛を、最後にひと目、孫右衛門に会わせたいと思っています。しかし、孫右衛門は親不孝者な息子に会おうとしません。そこで、孫右衛門に目隠しをして忠兵衛を連れてきて、そっと目隠しを隠して二人を会わせるのでした。

 そうしているうちに、忠兵衛を探して追っ手がやってくると、孫右衛門は抜け道を教えて二人を生き延びさせます。孫右衛門は最後の別れとなる二人の行方を見守るのでした。
 こんな感じでしょうか。親子劇です。親子の情愛がとてもきめ細やかに表現された演目で、これが約250年前、1770年代の日本で作られたというのが驚愕です。そして、その情愛が現代にも通じるというのが驚きです。





 この今も昔も変わることのない親子の情愛が感じられる演目としては、とても素晴らしいです。が、心理劇のため、人形の動きが少ないのが残念です。ビギナーにこの奥深さを理解しろというのはコクかもしれません。

 ビギナーが楽しむ視点としては、太夫さんの語りだと思います。人形だけみていると、男性になったり女性になったりと、ほんとうに器用に語り分けているのをぜひ聞き比べてほしいです。そして、となりの太棹の三味線の悲しい音。人間の悲しい心情を表現するのに、どうして三味線はこんなにもぴったりと、心に染みいるのかを感じると、文楽の魅力をより感じ、次回も観てみたくなると思います。

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