暫は必見!「二月大歌舞伎」(昼の部)オススメ度の星評価!


 好評の歌舞伎初心者向け、オススメ度の星評価表!!現在、東京・歌舞伎座で公演中の「二月大歌舞伎」(昼の部)の初心者向けのオススメ度表です。★が多いほど必見です。満点は★★★★★。公演会場での「盛り上がり度」、「眠っている人度」、「口コミ度」などを総合的に判断しました。★:オススメ、☆:イマイチ

<昼の部>
(1)★★★★☆春駒祝高麗(11:00-11:16)
(2)★★★★☆一條大蔵譚 檜垣・奥殿(11:31-1:00)
(3)★★★★★歌舞伎十八番の内 暫(1:30-2:25)
(4)★☆☆☆☆井伊大老(2:45-3:40)



【総評】
・総合点★★★★☆
 今月は一月に続いて白鸚、幸四郎、染五郎の高麗屋三代襲名披露記念公演です。今月は成田屋の海老蔵も参加してのより「お祝い度の高まった公演」です。先月を見逃した方はぜひ見なければいけません。とくにビギナーは、歌舞伎の典型的な演目とも言える歌舞伎十八番「暫(しばらく)」が公演されますので、幕見席に並んででもみましょう。歌舞伎座での「暫」はかなり「しばらくぶり」ですし。おまけに四つの演目が見られるのも超お得です。それらを総合的に判断して、四つ星とさせていただきました。



<2月3日(節分)の観劇結果です>
<昼の部>
(1)★★★★☆春駒祝高麗(11:00-11:16)
 二月大歌舞伎の幕開けは、美しい舞踊の「春駒祝高麗(はるこまいわいのこうらい)」です。歌舞伎のお祝いの定番の「曽我モノ」を題材とした長唄舞踊です。「曽我モノ」とは、父を殺した仇、工藤祐経(すけつね)を討つために、その息子の曽我五郎、曽我十郎の兄弟が活躍する、というお話で、歌舞伎では正月などによく演じられる演目。

 この演目では、曽我五郎を芝翫、曽我十郎を錦之助が演じ、二人は手に「春駒」という小さい馬の頭を摸した飾りをもって踊ります。ゆるゆると踊る姿はとても優雅で目に楽しいものです。そしてその背後には、梅枝、米吉、梅丸の女形が並び花を添えます。米吉、梅丸は先月の新春浅草歌舞伎でも大活躍でしたが、いや、改めて歌舞伎座で見ると、美しいですよね、彼ら。あっぱれです。

 20分という短い演目ですが、力強い大薩摩で始まり、線の細い長唄舞踊でしっとりと決めています。工藤祐経役の梅玉、朝比奈(あさいな)役の又五郎もとても重厚で、安定感を醸し出していました。みなさま、ありがとうございました。



(2)★★★★☆一條大蔵譚 檜垣・奥殿(11:31-1:00)
 二月大歌舞伎昼の部最初のお芝居は、時代物歌舞伎の「一條大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)」です。主役の大蔵卿は、芸者遊びにくれる、ちょっとおつむのたりない阿呆(あほう)な公家。しかし、それは平家を油断させるための偽りの姿で、たまにみせるきりりとした顔との切り替えがみどころのお話です。ストーリーもそんなに複雑ではなく、阿呆ぶりの楽しさが伝わってくるお芝居で、なんども演じられますので、ビギナーは見ておくべきでしょう。四つ星としました。

 舞台は、檜垣茶屋での庶民の世間話の場面から始まります。そして芸者をおいかけて遊び呆けている大蔵卿が登場しますが、その登場人物の多いこと。芸者姿の役者さんが多数舞台にでてくる姿は圧巻です。そしてお京役の孝太郎がしっとりと踊る「鶴の舞」が最初のみどころ。お芝居の中に自然とこのようなプチ踊りが組み込まれているところも歌舞伎の醍醐味でしょう。

 もともとは源氏方なのに平家方の大蔵卿の妻になった常磐御前。彼女が楊弓にうつつをぬかして遊んで暮らしている、という噂を聞いた源氏方の鬼次郎とお京は、そんな常磐御前の様子を探りに屋敷に入り込みます。そして、楊弓に夢中になっているその常磐御前を見て怒った鬼次郎は、どうしてそんな遊興にふけっているのかと常磐御前を打ち据えます。しかしそれは常磐御前の策略。遊んでいるのは偽りの姿で、源氏復活のために弓矢の練習をしているのでした。そうして弓矢の的の下には、平清盛の絵が描かれており、それが見事射抜かれていたのです。

 そのことを聞いていた八剣勘解由(やつるぎ・かげゆ)は、平家に進言しようとすると、御簾の中から斬られてしまいます。するといつもの阿呆の姿とはうってかわって威厳のある風貌の一條大蔵卿が現れるのでした。




 このようなストーリーなのですが、最後に勘解由の妻鳴瀬が突然自害するシーンでビギナーは混乱するかもしれません。彼女は夫の行動が申し訳ないと思っての自害でした。この部分を抑えておくとすっきりと最後までお芝居を見ることができると思います。ご注意ください。

 このお芝居は「浄瑠璃もの」。つまり、もともとは人形浄瑠璃で演じられていた芝居を歌舞伎が導入したものです。そのため、途中で主役以外の役者が後ろをむいてずっと座ったまま、というシーンがとても多いので、ビギナーは不思議に思うことでしょう。勘解由と妻の鳴瀬が、ずーっと後ろを向いたままなので、ビギナーのわたしは、「こういうときは役者さん、なにを考えているのだろう」とも思ってしまいました。すみません。

 配役は、新幸四郎が一條大蔵卿、時蔵が常磐御前。そして、松緑が鬼次郎、孝太郎がお京、歌六が勘解由、秀太郎が鳴瀬という、若手が見当たらないベテランの布陣です。とても安定しています。こんな贅沢は配役はめったに観られないでしょう。生真面目な鬼次郎を演じるのは松緑でまさに適役。ベテラン歌六の勘解由も見どころでしょう。

 この演目は、新幸四郎のおじにあたる吉右衛門の当たり役と言われているとのことで、歌舞伎座では2016年9月に吉右衛門が演じていました。また、2015年9月には同じく年歌舞伎座仁左衛門も大蔵卿を演じていました。この二つの演目を観ているビギナーのわたしの印象としては、新幸四郎の一條大蔵卿は、阿呆度がちょっとたりない感じでした。だって、新幸四郎、二枚目すぎますもの。あの端正な顔で「阿呆役」はちょっとコクだと思いませんか?

 とは思いましたが、そのような二枚目過ぎる逆境をはね飛ばして、がんばって阿呆を演じている新幸四郎さんの演技は見どころです。ビギナーとしてはこれから何度も目にする演目ですので、ぜひご覧ください。

 そして最後にこのお芝居で一番面白いセリフは、刺された勘解由が死ぬときに吐くセリフです。「死んでもほうびが、金が欲しい」というような感じのセリフを言っていましたが、七五調で楽しく感じました。みなさま、楽しいお芝居ありがとうございました。




(3)★★★★★歌舞伎十八番の内 暫(1:30-2:25)
 さあ、平成30年二月大歌舞伎昼の部の三つ目の演目は、歌舞伎十八番(おはこ)の「暫(しばらく)」です。市川海老蔵が演じる成田屋の家芸です。舞台にずらりと並ぶさまざまな化粧の役者、派手な衣装と派手な演出。これこそ、ビギナーが見ても納得の「ザ・歌舞伎」です。歌舞伎にちょっと興味がある方、歌舞伎の醍醐味を楽しみたい方にぜひご覧いただきたい演目です。もちろん満点の五つ星です。チケットはすでに入手困難ですが、幕見席に挑戦してぜひ観劇しましょう。

 「ストーリーはあることはあるのですが、ないようなもの」とイヤホンガイドでも言っていました。難しいことは考えずに観劇できる、歌舞伎的には珍しい演目でもあります。簡単に説明しますと、極悪ヒール役の清原武衡(たけひら)が善人をいびっていじめているところに、正義のヒーロー鎌倉権五郎(ごんごろう)が「しーばーらーくー」と叫びながら登場、ヒールをやっつけるという内容です。とにかく、見ていて楽しい。これが歌舞伎の「荒事(あらごと)」と言われるお芝居となります。

 配役は、鎌倉権五郎が海老蔵、悪役のボスである清原武衡に左團次、入道震斎に鴈治郎、照葉に孝太郎などが主なキャスト。ほか、代表となっていじめられている侍の加茂次郎に友右衛門、ほかに、右團次、彦三郎、坂東亀蔵、尾上右近、男女蔵などなど、海老蔵の成田屋を盛り上げるメンツが勢ぞろいです。




 みどころは、ズバリすべて。権五郎の派手な衣装、想像を絶する大きな着物のたもと。もう凧(タコ)です。ありえない大きさ。それにウルトラマンみたいなメイクに髪型。イヤホンガイドによると、重さは総量60キロもあるとのこと。海老蔵さん、頑張っています。「仁王襷(たすき)」をまとって、「元禄見得」を切ったり、「六方」をとんだり、そして「あーりゃーこーりゃー。でっけーでっけー」と威勢の良い掛け声。そして、いっせいに首が切られて、大量の生首がごろりところがりますが、愛嬌があって不思議に楽しい場面です。いや、何度でも見てみたい。

 歌舞伎座では、2016年10月に女性版の「女暫」が七之助で演じられていますが、なかなか見る機会がありません。2020東京オリンピックに向け、頻度を上げて上演してほしいものです。松竹さん、よろしくお願いいたします!




(4)★☆☆☆☆井伊大老(2:45-3:40)
 昼の部最後の演目は、新歌舞伎の名作「井伊大老」です。1956年(昭和31年)に明治座で初演されたお芝居とのことです。うーん。ビギナーにはちょっとハードルが高い演目だと思います。ぐっすりと眠ってしまうのではと心配です。これを観て「これも歌舞伎なの?」と混乱するかもしれませんので、ビギナー視点でひとつ星としました。興味のあるビギナーはどうぞご覧ください。

 しかし「そろそろわたしってビギナーを卒業したかな?」と思う方は観た方がよいでしょう。このお芝居の奥深さを理解できると、あなたは立派にビギナー卒業生と自覚してもよいかもしれません。

 舞台は幕末。暗殺される井伊直弼の最期の心情を描写した心情劇です。舞台は終始暗い中で進行します。さらに、BGMとなる下座音楽もほぼなし。重苦しい雰囲気が続くお芝居です。最期が近い井伊直弼の心情を、吉右衛門が好演しています。さらに、お静の方に雀右衛門、仙英禅師に歌六、長野主膳を梅玉と、これまたベテランが重厚がお芝居を盛り立てています。歌六はお坊さん役がいつもぴったりですね。

 舞台下手の桜とそこに降り積もる春の雪。日本人の心情を表現する小道具も揃っています。にぎやかだった昼の部の締めとして、しめやかにすすむ舞台で心鎮めるのもよいでしょう。みなさま、素敵なお芝居をありがとうございました。 



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