超豪華な口上芝居に驚愕!「二月大歌舞伎」(夜の部)オススメ度の星評価!


 好評の歌舞伎初心者向け、オススメ度の星評価表!!現在、東京・歌舞伎座で公演中の「二月大歌舞伎」(夜の部)の初心者向けのオススメ度表です。★が多いほど必見です。満点は★★★★★。公演会場での「盛り上がり度」、「眠っている人度」、「口コミ度」などを総合的に判断しました。★:オススメ、☆:イマイチ

<夜の部>
★★★★★(1)一谷嫩軍記 熊谷陣屋 (4:30-5:55)
★★★★★(2)壽三代歌舞伎賑 木挽町芝居前(6:25-6:50)
★★★★★(3)仮名手本忠臣蔵 祇園一力茶屋の場(7:15-8:55)





【総評】
・総合点★★★★★★(星一つ追加の六つ星)
 二月大歌舞伎夜の部は、五つ星では足りません。六つ星とさせていただきました。歴史的な公演です。末代まで語り継げるでしょう。歌舞伎に興味があってもなくても、機会を作ってぜひ歌舞伎座を訪れるべき公演です。二つのお芝居の演目も超有名な歌舞伎の定番ですし、驚くべきは二幕目の芝居仕立ての口上。新歌舞伎座の柿葺落(こけらおとし)公演での出場者を上回る数の役者が舞台上と両花道に勢揃いします。驚愕です。ビギナーにかぎらずベテランも興奮する二月大歌舞伎夜の部は必見です。ビギナーのわたしも興奮してしまい恐縮です。





<2月3日(節分)の観劇結果です>
★★★★★(1)一谷嫩軍記 熊谷陣屋 (4:30-5:55)
 「いちのたにふたばぐんき」「くまがいじんや」と読みます。何度も演じられる時代物歌舞伎の名作です。ビギナーは一度は観ておくべき演目ですので、五つ星としました。主役の直実を新幸四郎が演じていますし。ストーリーはかなり複雑ですので、しっかり予習をして臨みましょう。予習なしだと眠ってしまう確率大です。そういう意味でも、歌舞伎のエキスがぎゅっとつまった演目とも言えます。

 「武士の忠義」と「親子の情愛」を天秤にかけて、結局子どもを犠牲にして忠義を優先する、という現代の感覚からすると理不尽とも言える話です。「菅原伝授手習鑑 寺子屋」と似た話とも言えますね。

 お芝居は、熊谷直実の陣屋の場面からスタートします。舞台下手には立派な桜の木がそびえていますが、その前には制札(せいさつ。立て札のこと)が建てられています。その制札を前にして、庶民が世間話をしています。一方の屋内では、熊谷直実(くまがいなおざね)の妻の相模と藤の方がいます。藤の方は敵方平家側ですが、恩義あって相模がかくまっていたのでした。

 そんなところに熊谷直実が戦(いくさ)から戻ってきます。そして敵である平家方の平敦盛(あつもり)を討ったとして、その詳細を語り出しました。そのとき敦盛はまだ16歳。自分の子どもと同い年の敵方を討ったのです。すると、藤の方が突然直実に斬ってかかります。それは敦盛は藤の方の息子だったためです。




 そんな騒動の中、陣屋に直実の主君にあたる、源義経が現れて、その討ったという敦盛の首が本物かどうか確認すると言い出します。歌舞伎で定番の「首実検」です。そうして、直実が討ったという首を確認すると、その首はなんと直実と相模の間の息子である、小次郎の首でした。そうとわかった藤の方と相模は大騒ぎ。その首が見えないようにあたふたします。そして、その首が小次郎の首だったにもかかわらず、義経は「敦盛の首だ。よくやった」と直実をねぎらいます。

 一方で、その騒ぎをみていた源氏方の侍、梶原景高(かげたか)が、敦盛が生きていて義経がそれをかばったということを進言するために、走り去ろうとします。すると、何者かが投げた石のみが刺さり、死んでしまいます。それは、石職人の弥陀六(みだろく)が投げた石みのでした。実はこの弥陀六、その昔、幼い義経を助けたことのある弥平兵衛宗清(やひょうびょうむねきよ)という平家方の侍でした。

 そして義経は、鎧櫃(よろいびつ)に敦盛を隠して弥陀六に背負わせ、藤の方とともに今後を託すのでした。そした。自分の息子を殺めてしまった直実は、その罪をほろぼすため、僧侶となって出家するのでした。

 長くなりましたが、このようなストーリーです。最後の弥陀六でてくるあたりで、ビギナーはパニックになるでしょう。内容を把握していないと、首実検してあたふたする場面で、観ている方もあたふたしますから、このあたりの人間関係は把握しておきましょう。別の公演での人間関係図はこちら

 配役は、直実を新幸四郎、その妻相模を魁春、敦盛の母である藤の方を雀右衛門、景高を芝翫、弥陀六を左團次が演じます。新幸四郎、立派に演じています。ほか、巳之助や、鴈治郎も出演するなど、脇役が豪華すぎでお得感満載です。みなさま、ありがとうございました。

 芝居では「平山見得(ひらやまみえ)」「制札の見得(せいさつのみえ)」など、有名な見得が披露されます。そして、最後に花道の七三に一人残った直実が、長唄の三味線ソロ演奏をバックに「十六年は一昔。夢だ、夢だ」と語って幕です。

 ビギナーとしては、途中で寝てしまうかもしれません。しかし、途中でねてもかまいません。最後の幕外での引っ込みで、すべて帳消しされて観て良かったと安心した気分になれますので。「浄瑠璃モノ歌舞伎の雰囲気」「重厚な雰囲気」「首実検」とビギナーが学ぶべき点は多々ありますので、ぜひ観劇しましょう。





★★★★★(2)壽三代歌舞伎賑 木挽町芝居前(6:25-6:50)
 二幕目は、高麗屋三代同時襲名をお祝いするお芝居です。一月大歌舞伎では、名だたる歌舞伎役者が正座してずらり勢ぞろいしてお祝いを述べる伝統的な口上(こうじょう)でしたが、今月は芝居仕立て。劇中劇の中に口上が組み込まれているという趣向のお芝居で、とても楽しめる演目となっています。下記、ネタバレも含まれていますので、これから観劇予定の方で、楽しみにしているかたはどうぞスキップしてくださいませ。

 と、冷静に述べていますが、超豪華な面々が舞台に一堂に会し、ビギナーのわたしは興奮してしまいました。どうしてももう一度観たくてたまらず、会社を早退して幕見でも観てしまいました。平日に飛び出しましたが、16:45の幕見チケット売り出しの30分前から並んで、99番のチケットをゲットできました。もちろん立ち見ですが、売り切れじゃなくてよかった。イヤホンガイドによると、新歌舞伎座開場を上回る役者が勢ぞろいしたとのことです。

 さて舞台は賑やかな芝居小屋の前で、高麗屋三代の襲名をお祝いする人々が集まっているという場面から始まります。そしてまずは、仁左衛門の登場です。仁左衛門はいつみてもかっこいい。よい役者です。おや、舞台下手側の長椅子には、長老らしき人が座っています。ちょっと聞きづらいのですがセリフも話していました。なんと、それは片岡我當だったのです。一月の口上にもでていないのに役者としてでているのに、驚きました。「かぶき手帖」(通称手帖)によりますと、昭和10年1月7日生まれ。13代目片岡仁左衛門の長男とあります。雀右衛門と芝翫の襲名披露のときは、口上に鎮座していましたね。83歳で舞台にいるのは立派なものです。ありがとうございます。




 さて、そんな賑やかな雰囲気の中、花道から高麗屋三代が登場です。白鸚、幸四郎、染五郎。そして猿之助も出てきました。お三方はそれぞれちょっとセリフを話します。新幸四郎は「妄想にも見る夢のよう」と言っておりました。先月の口上で話していた「歌舞伎職人」といいワンフレーズがうまいですよね。とても自然でいやみも感じられず、スマートさを感じられて好感が持てます。応援したくなります。応援いたします。

 さて、舞台奥からは菊五郎、藤十郎、吉右衛門が登場します。いや、藤十郎はしゃんと立って、セリフもきちんとこなしています。昭和6年12月31日生まれですよ。奇跡の86歳ですね。そしてこのあとは、両花道にお祝いを述べる男伊達と、立女形が勢ぞろいします。本花道(下手側)には男勢、仮花道(上手側)には女形が並び、立役と女形が交互にこんな順番で挨拶を述べていきました。

 左團次→魁春→又五郎→時蔵→鴈治郎→雀右衛門→錦之助→孝太郎→松緑→梅枝→海老蔵→高麗蔵→彌十郎→大谷友右衛門→芝翫→東蔵→歌六→秀太郎

 いや、そのあとに玉三郎と梅玉も花道から登場するではありませんか。そうして、背中に尺八を携えた一堂は舞台に集まって、開場のみなさんとともに手締めを一回。日本の伝統的なコールアンドレスポンスですね。上品で盛り上がります。それから、舞台が大展開。かたしゃぎりが鳴り響く中、舞台がせり上がり、舞台上に3人の口上の挨拶が始まります。細かく記述してしまいました。

 とにかく、昭和56年10月以来の三代同時襲名です。ビギナーもベテランも、一緒にお祝いいたしましょう。とても素晴らしい演出の口上、ありがとうございました。

 そして、なんと2月3日の節分の日の夜の部は、このあとに節分タイム! 大入りの袋に入った豆が配られました。舞台からの投げ入れのほか、客席では松竹の方が升にはいった大入り袋を配ってくれていました。いや、ラッキーでした。




★★★★★(3)仮名手本忠臣蔵 祇園一力茶屋の場(7:15-8:55)
 二月大歌舞伎最後の演目は、仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)です。ビギナーのわたしたちは、「忠臣蔵? あ、あの雪の日の討ち入りするお芝居ね」と思うでしょう。しかし、このお話はそうではありません。その忠臣蔵の裏で進行するお話のお芝居で、通称「七段目」とも呼ばれています。ビギナーは予習が絶対必要です。予習しないで討ち入りの話と思って安心していると、まったくわけがわからなくなります。予習を通すことで、仮名手本忠臣蔵の壮大な物語の全体像が見えてきますので、ぜひ、この話が全体のどこの話なのかを把握してから観劇しましょう。この後、絶対に役に立ちますから。

 さて、このような話です。切腹した主君、塩冶判官(えんやはんがん)の仇討ちの計画を練っている大星由良之助(おおぼしゆらのすけ)。しかし、由良之助は京都の祇園で、毎日芸者遊びの日々。早く討ち入りを実行してほしいと思っている、富森助右衛門、矢間重太郎らが真意をただすために由良之助に迫りますが、まったく相手にせず、怒って帰ってしまうほどの体たらく。一方、塩谷家の足軽、寺岡平右衛門も仇討ちに加わらせてくれと由良之助に頼みます。平右衛門は寝入ってしまった由良之助に嘆願する手紙を渡すなどしてお願いしますが、手紙はなんども振り払われて受け取ってもらえないなど、こちらもまったく相手にしてくれません。

 そんな中、由良之助は亡き主君の奥方、顔世御前からの手紙を読み始めると、隣の離れの二階にいる遊女のお軽(おかる)と、床下に潜んでいた敵方の九太夫に盗み読まれます。それを知った由良之助は、お軽を生かしておけないと判断し、身請け話を持ち出します。実は、お軽は平右衛門の妹。平右衛門は、由良之助に迷惑をかけてしまっている自分の妹を殺して手柄をたてることで、討ち入りに加わらせてくれるのでは、と妹を手にかけることを決めるのでした。一方で、お軽は、自分が死ぬことで兄が手柄をたてることができるなら、と自害を決意します。そんな中に由良之助が現れて、兄妹の言い分を理解し、お軽を助けて平右衛門を討ち入りに参加させることにするのでした。

 このような話です。舞台の変化が少なく、動物などの小道具も登場しない、セリフのやりとりが続く芝居ですので、ビギナーは寝てしまうかもしれない。仕方ないでしょう。討ち入りだけが忠臣蔵ではない、とわかれば十分です。

 配役は、大星由良之助に白鵬、大星力弥に染五郎、富森に彌十郎、重太郎に松江という安定した布陣です。そして、偶数日と奇数日でお軽と平右衛門の配役が違うという珍しいパターンで、偶数日は、お軽に菊之助、平右衛門に海老蔵、奇数日はお軽に玉三郎、平右衛門に仁左衛門という配役でした。

 このお芝居のみどころのひとつは、由良之助が手紙を読んでいると、二階からはお軽が、床下からは久太夫が覗き見るというシーンです。お軽は二階から手鏡を使って盗み読むという場面ですが、その図柄は、現代人からするとスマホを利用して遠くのものを観ているようにも見えて不思議な感じがしました。

 そして最大の見どころは、芝居の後半にお軽と平右衛門がくりひろげる二人のやりとりと言えるでしょう。ビギナーのわたしは、奇数日を観劇しました。お軽が玉三郎、平右衛門が仁左衛門。この場面は、二人のセリフが長く続き、おそらく一番眠たい場面かもしれません。眠ってしまうのだろうと思っていました。しかし、いや、この二人の配役による芝居だと、まったく眠たくなりませんでした。自然に感情移入できて、ほんとうに芝居を楽しむことができた。平右衛門が、お軽の夫、勘平が死んだのをお軽に告白する場面や、その死をお軽が悲しむ場面、そして、平右衛門の討ち入りへの情熱などをとても自然で楽しむことができました。海老蔵と菊之助の場合はどうなったのかとても気になりますね。眠そうな場面で眠らなかったことが、ビギナーとしてはとても嬉しく感じたりして。

 ほか、襲名披露のお祝い演目らしく、冒頭の芸者が遊ぶ場面では、芸者たちが高麗屋の菱形がよっつ並ぶ模様をつくるなどもありました。いずれにせよ、この演目は、昭和56年の前回の高麗屋三代襲名披露でも演じられた演目とのことです。そういう意味でも、お祝いの演目と言えるのでしょう。忠臣蔵ものはビギナーはぜひみたいところです。



▼昼の部の報告はこちら

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