★★☆☆☆(3)鬼一法眼三略巻 菊畑(6:42-7:46)
團菊祭五月大歌舞伎の夜の部、「鬼一法眼三略巻物・菊畑」を幕見で観劇しました。先日、夜の部を観たのですが、弁天小僧の観劇に体力を使われて、そのあとの「菊畑」の記憶がほぼなく、悔しい思いをしていたためです。ちなみに「きいちほうげんさんりゃくのまき・きくばたけ」と読みます。
火曜日平日の夜ということもあり、混雑はしておりませんでした。といいますか、半分も埋まっていないような感じですので、会社帰りに気軽に観劇できると思います。幕見席がどういうものか試してみたい方、混雑していないこの演目でぜひお試し下さい。演目は素晴らしいですから。18:45開演ですが、幕見席のチケット発売は16:45、集合時間は18:15です。おそらく18:30ごろに直接行っても入れると思います。
さて、この演目を楽しめるかどうか。ズバリ、このお芝居を楽しめる方は歌舞伎ビギナーを卒業した「歌舞伎の通(つう)」と堂々と胸を張ってよいのではないでしょうか。自称ビギナーのわたしは、まだすこし楽しめません(涙)が、歌舞伎のエキスがギュッとつまっているのはなんとなく感じることはできます。この歌舞伎は「歌舞伎の典型的な役柄が揃う義太夫狂言」とチラシなどにあるように、いろいろな役が楽しめますので、そいういう点では楽しめましたが、いわゆる「ちょっと眠たくなる歌舞伎」の代表作かもしれません。もちろん役者さんのお芝居はとても熱が入っています。
まず、ストーリーがちょっと複雑。これはズバリ「平家モノ」の類いです。簡単にまとめると、再興を願う源氏関係の人々が、かつて源氏で今は平家側についている人に「源氏を本当に再興する気があるのか!」と詮索する物語と言えます。歌舞伎にはこれに似た話が多いのですので、その典型例と覚えてもよいでしょう。「仮名手本忠臣蔵」で大星由良之助が、京で芸者と遊び呆けて、仲間から「本当に仇討ちする気があるのか!」と詰め寄った構図と全く同じと言えるのではないでしょうか。
尾上松緑が演じる主人公の鬼三太(きさんた)は、團蔵が演じる吉岡鬼一法眼(きいちほうげん)の屋敷に仕える奴(やっこ)。この屋敷には鬼三太と一緒に虎蔵も奉公していますが、この時蔵演じる虎蔵は、実は牛若丸。源氏の再興を願う二人は、かつて、源氏に仕えていたが、いまは平家側についている鬼一法眼の動向を探っています。この部分が大きな柱で、その周辺で、牛若丸に恋をしている皆鶴姫(みなづるひめ)が登場し、その皆鶴姫に横恋慕する湛海こと板東亀蔵が現れるなど、物語が複雑になっています。予習なしで観劇すると、かなりハードルが高いでしょうから、事前にきちんと人間関係を把握しておきましょう。
ビギナー視点で面白かったポイントを箇条書きに記します。
・幕が開くと、智恵内が大きな毛抜きでひげを抜いている!江戸時代は毛抜きでひげを抜いていたのでしょうかね。痛くなかったのでしょうか、と心配になりました。
・イヤホンガイドでは「幕が開くと一面の菊畑」とありましたので、舞台上は青山葬儀場の著名人の葬儀のように菊で一面埋め尽くされた舞台なのだろう、と胸が高鳴りました。浅葱幕がその期待感を盛り上げます。が、幕が切って落とされると、一面の菊畑ではなく、菊が植えられた屋台のような花壇が数カ所並んでいるだけでした…。菊畑にも限界がありますから、しょうがないのでしょう。失礼いたしました。なお、イヤホンガイドによると、その菊畑は大道具さんの担当で、菊一輪は小道具さんの担当とのことです。
・松緑さんの奴(やっこ)ぶりが名演。「ネイ」という返事がたまりませんね。「ネイネイ」と。会社の上司に仕事を頼まれるとつい心の中で「ネイ」と言うようになりました。
・時蔵さんの牛若丸は適役です。いつもは女形の時蔵さんですが、牛若丸の若々しくそしてちょっと弱々しいが高貴が味をよくだしていいます。素晴らしい役者さんということを再認識しました。
・児太郎さんの赤姫が美しい。赤い着物を着て現れると、ほんとにステキな女性に見えるのですよね。こんぴら歌舞伎で間近で観ると、背が大きくてしっかりした印象だったのですが、歌舞伎座のような大きな舞台だと、ほんとにか弱い女性に見せるところが役者としての力量なのでしょう。感服いたしました。
・亀蔵さんの悪役も隈取りが派手でほっとしました。いわゆる「ザ・歌舞伎」の側面を楽しめるでしょう。團蔵さんのお年より役もとてもよいですね。
残念だったのが、外国人観光客が芝居中におしゃべりをしていたことです。ラテン系の毛深い男性二人がスペイン語でなにやら話しているのが、とても迷惑でした。なんか訳のわからないというジェスチャーをしきりにしていたので、不満だったのかもしれませんが、だったら静かに寝ていていてほしいところでした。松竹の係員さん、見回りの強化をお願いします。