文楽ビギナーにも最適!「12月文楽公演(2018)」初心者向けオススメ度の星評価!


 好評の歌舞伎・文楽初心者向け、オススメ度の星評価表!!現在東京・国立劇場小劇場で公演中の「12月文楽」の初心者向けのオススメ度表です。★が多いほど必見です。満点は★★★★★。公演会場での「盛り上がり度」、「眠っている人度」、「口コミ度」などを総合的に判断しました。★:オススメ、☆:イマイチ

【総評】
・総合点★★★★☆
 今月は文楽鑑賞教室も開催されているため、いつもの第一部、第二部の構成ではなく、文楽鑑賞教室とこの12月文楽公演、の2種類が交互に演じられています。今年の文楽鑑賞教室は「菅原伝授手習鑑」ですので、ビギナーはこちらも必見です。「三大浄瑠璃」、または、「三大歌舞伎名作」「歌舞伎三大名作」と言われるうちの一つですので、ぜひチェックしましょう。ちなみに、「歌舞伎三大名作」は、この「菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)」「義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)」「仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)」となります。

 今月の演目は、時代物の「鎌倉三代記」という時代物と、「伊達娘恋緋鹿子」という世話物の演目となっています。文楽らしいエキスがギュッとつまった演目ですので、ビギナーはもちろんのこと、ベテランのかたも納得の演目に違いありません。ビギナーが観るべきかどうかという視点で、堂々の四つ星といたしました。文楽の激しい人形の動き、楽しさ、そして、義太夫の素晴らしい語りを生で体験できる貴重な機会ですので、ぜひ足を運んでいただきたいと思います。ただ、週末はすでに売り切れのようですが…。

 国立劇場小劇場の文楽公演では、義太夫の語るセリフが字幕が舞台に表示されます。いつもは、上手と下手、つまり左右の舞台横に表示されているのですが、今回は舞台上部中央に表示されていました。これはよい!とても見やすいですのでご確認ください。もちろんイヤホンガイドは是非借りて、じっくり鑑賞しましょう。

【演目ごとの講評】
★★★★☆(1)鎌倉三代記(かまくらさんだいき)
「局使者の段」「米洗いの段」「三浦之助母別れの段」「高綱物語の段」
 12月文楽の幕開きは、時代物で有名な「鎌倉三代記」です。歌舞伎の演目としても有名ですが、文楽がルーツとなっていますので、この文楽バージョンを観ておくと歌舞伎がより楽しめます。歌舞伎ではどうして役者が後ろを向いてじっとしているのか、などの謎がとけると思います。その歌舞伎では三段目の「三浦之助母別れの段」がとても有名で、繰り返し演じられていますね。

 さて、本家本元の文楽版は、文楽らしい複雑な物語の展開の一方、「米洗いの段」では田舎娘の楽しいやりとりなど、文楽の楽しさを堪能できると思います。ビギナーとして是非みていただきたいので、四つ星としました。

 ストーリーはかなり複雑です。きちんと予習をして臨みましょう。今回の物語で軸となるのは、京方(大坂)と鎌倉方(徳川方)の対決です。鎌倉方の北条時政の娘、時姫(ときひめ)は、京方の源頼家の許嫁(いいなづけ)でしたが、その京方の使者、三浦之助に恋をしました。つまり、あろうことか敵に恋をしたのです。その恋人の母親は病に伏せっているため、好きな三浦之助の母親を看病しようと、時姫は敵方の家にお邪魔をしています。それが絹川村というところです。ここでいろいろと起きる出来事が繰り広げられるのです。歌舞伎の鎌倉三代記の人間関係図はこちらにありますので、どうぞご参考にしてください。

 今回の注目は、最後の「高綱物語の段」です。義太夫は竹本織太夫、三味線は鶴澤清介のゴールデンコンビです。竹本織太夫は今年1月に竹本織太夫を襲名しました。辛口で有名な朝日新聞の夕刊の演劇評でも「40代の張りのある声」と褒めていましたね。ビギナーのわたしとしては、織太夫の「顔で語る」ところが大好きです。語るときの顔の表情が、まあ豊かなこと豊かなこと。観ているだけでも楽しく、気持ちよさそうなので、自分も語りたくなります。とくに笑い声のセリフ「わっはっは」「あっはっは」などは、ほんとうにこっちもおっかしくなります。人形を観ずにほとんどぶん回しに注目してしまいます。鶴澤清介の三味線も、かけ声が威勢良くて本当に力強い!「はっ」「んん」と会場に響き渡る声がとてもメリハリの付く浄瑠璃に仕上げています。ありがとうございます。

 ところで、ビギナーのわたしは、芝居が始まる前の黒衣さんの口上の挨拶が大好きです。「さ、これからようやく文楽!だ」とわくわくしていると、脱力気味に「とざいーとーざいー。ただいまのだんー、ぎだゆうーたけもとおりだいゆー、しゃみせんー、つるざわーせいじー。とざいーとーざいー(と歩きながら去っていく)」などとはじまります。最初はこの脱力ぶりに「がくっ」と、膝が折れるような感覚がありましたが、この落差がたまらない。くせになってしまいました。みなさんもぜひ、口上から文楽をかみしめてください。

 ほか、この浄瑠璃の見どころは、藤三郎人形のソロ演技でしょうか。最後の藤三郎が本性を語る部分では、長いソロ演技があります。いや、人形が動くこと動くこと。また、どこの段は忘れましたが、人形が「シェー」といって驚く場面があったりと、いろいろ見どころがありますので、ぜひビギナーもお楽しみください。





★★★★★(2)伊達娘恋緋鹿子(だてむすめこいのひがのこ)
「八百屋内の段」「火の見櫓の段」
 12月文楽、二幕目は江戸庶民の生活を描いた世話物、「伊達娘恋緋鹿子(だてむすめこいのひがのこ)」です。この演目はとても短く(40分くらい?)、かつとてもわかりやすい内容で、かつ、はしごを人形が上っていく、などビギナーも飽きることなく楽しめます。鑑賞教室をこちらにしてもよいのでは、と思うくらいの演目ですので、ビギナーは絶対にみるべし!と堂々の五つ星とさせていただきました。贅沢を言えば、これが近松作品だったらなおよいのですがね。

 惚れた男を救うために自らの命を省みずにふるまう女性の物語です。現代ドラマにも通じるストーリーでとても楽しめます。見どころははしごを登っていく最後の「火の見櫓の段」です。火の見櫓をするりと登る、のではなく、苦労してようやくなんとか昇りつくというその人形裁きは見事で、観ているこちらもハラハラしてしまいました。四挺四枚の賑やかな演奏がハラハラに拍車をかけます。もっとも、「とても大事な火の見櫓がそんなに登りづらいのはまずくね?」と思うのはわたしだけではないでしょう。危機管理的に。

 このお芝居で楽しかったのはそのセリフです。「おおこわ!」「え、こりゃきつい」という関西弁丸出しのセリフが所々にまぶされてちょっとプッと吹き出してしまいました。また、「八百八町」「見つけられたら百年目」などと、関西弁らしい大げさな表現が面白いですよね。

 ところで、ビギナーのわたしが大好きな義太夫の千歳太夫(ちとせたゆう)は、今月は鑑賞教室に出演とのことで観ることができませんでした。千歳太夫、一見どこにでもいる「近所のおじさん」にしか見えないのですが、語り出したらすごいんです!その木訥とした容姿からは想像のできない、パワフルな語りが魅力の語り手です。みなさんもぜひ注目ください。みなさま、ありがとうございました。





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