重厚な名作とやっぱり猿之助!「壽初春大歌舞伎大歌舞伎(2019)」(夜の部)初心者向けオススメ度の星評価!


 好評の歌舞伎初心者向け、オススメ度の星評価表!!現在東京・歌舞伎座で公演されている「壽初春大歌舞伎」(夜の部)の初心者向けのオススメ度表です。★が多いほど必見です。満点は★★★★★。公演会場での「盛り上がり度」、「眠っている人度」、「口コミ度」などを総合的に判断しました。★:オススメ、☆:イマイチ

<昼の部>
★★★☆☆(1)絵本太功記(4:30-5:48)
★★★★☆(2)勢獅子(6:18-6:52)
★★★★☆(3)松竹梅湯島掛額(7:12-8:42)




【総評】
・総合点★★★★☆
 平成最後の壽初春大歌舞伎、夜の部は重厚感ある名作、所作事、ちょっとコミカルなところもある世話物と、バランスが良いお芝居となっています。ビギナーにはぜひ、一幕目の「絵本太功記」を見ていただきたいため、四つ星としましたが、かぎりなく三つ星に近い四つ星という感じでしょうか。「絵本太功記」は、まさに歌舞伎の王道。つまり、ビギナーにはかなりきついかもしれませんが、ぜひこのハードルを超えて新境地へと旅立っていただきたく思います。

 とはいっても、三幕目の「松竹梅湯島掛額」は、猿之助のキャラクター全開でとても楽しいお芝居。終わってみると、ビギナーはこのお芝居が
印象に残って大満足の観劇となるでしょう。そしてこの三幕目は、文楽ファンにとっては見逃してはいけない演目です。なんと、昨年12月の国立劇場小劇場で演じられた、平成30年文楽12月文楽公演の「伊達娘恋緋鹿子(だてむすめこいのひがのこ)」が一部盛り込まれているのです。それも「人形振り」という、人形の動きを七之助が演じるという、まさに文楽そのものなのです。文楽をルーツとする歌舞伎を知る良い例とも言えるでしょう。ぜひご覧ください。文楽公演の観劇記はこちら





【演目ごとの講評】
<1月5日の観劇記録です>
★★★☆☆(1)絵本太功記(4:30-5:48)
 なんども繰り返し演じられている、とても有名な歌舞伎演目です。「絵本太功記(えほんたいこうき)」と読みます。かなり重厚な演目です。いわゆる「ザ・歌舞伎」です。時代物です。ビギナーはこの機会にぜひチェックしましょう。といいましても、重厚すぎてかなりハードルが高い気がします。これを観ると「歌舞伎はやめておこう。。。」と思ってしまう人が多数でてしまう気がしますが、そうならないためにも綿密に予習して臨みましょう。ぜったいにそのうち楽しさがわかるようになりますから。歌舞伎の重要度としては五つ星なのですが、その点を考慮して三つ星、及第点としました。

 ストーリーは複雑ではありますが、筋としてはシンプルです。織田信長を暗殺した明智光秀の物語で、その明智光秀が懺悔の念に苦しむとともに、家族や子供などの周囲も巻き込んで、なんてことをしてしまったのか、今後どうしよう、と途方に暮れる、というストーリーがメインです。

 舞台は、その「武智光秀」(明智光秀)の息子、十次郎の登場から始まります。暗殺された「小田春永」(織田信長)の仇を討とうと、真柴久吉(羽柴秀吉)との戦がひかえており、それに向けての出陣をしようとしているのです。幸四郎がこの苦悩する、なよなよっとした十次郎を熱演しています。それから、主人公の武智光秀が登場し物語が展開していきます。




 お芝居の時間は約1時間20分。長い。暗い。重い。舞台に動きが少ない、重苦しい雰囲気が長く続きます。ビギナーには試練の時となるでしょう。しかし、出陣する息子を悲しむ母、妻、祖母の姿や、春永を殺した報いを母が受けてしまう、など現代までにも通じる悲しさ、不条理さが表現されており、現代まで長く親しまれている演目、ということのようです。そして、最後に殺されてしまう光秀への哀れを表現しているのは、判官贔屓の日本人の心情を表しているのかもしれません。「弱者によりそう日本人の心情を表現している名作」というようなことを、朝日新聞の劇評で書いてありました。日本人というか、関西人ということだったかもしれません。とにかく、奥深いお話となっています。

 重く長い会話劇が続き、最後に舞台が回転して、中央に大きな松が現れます。その松に光秀がのぼって戦場への意を決する、という場面で幕切れとなります。ビギナーのわたしは、この演目を観るのは3回目ですが、ようやくなにかがわかった気がしてきました。そのなにかがわかるのは、あと何回かかるのでしょうか。でも、着物の美しいことには毎回気づいておりましたよ。

 何度も書いていますが、とにかく重い、暗い、長いお芝居です。主役の光秀は吉右衛門が、妻の操を雀右衛門、十次郎が幸四郎、そして十次郎の妻初菊を米吉が、ほか、又五郎、歌六など、これまた重厚なメンツで演じています。

 ビギナーのみなさまには、重厚な歌舞伎の洗礼となるかもしれませんが、意を決してご覧いただければ幸いです。芝居としては現在の歌舞伎界最高レベルでこの重厚感を味わえるのは贅沢なことですから。みなさま、すてきなお芝居をありがとうございました。





★★★★☆(2)勢獅子(6:18-6:52)
 さあ、重厚感溢れるお芝居のあとの二幕目は、舞踊ものです。肩の力を抜いて観劇することができるでる所作事です。「勢いのある獅子」とかいて、「きおいじし」と読みます。「いきおいじし」ではありません。正月らしい演出が盛りたくさんのお芝居です。

 浅葱幕が切って落とされると、三梃三枚の浄瑠璃での演奏が始まります。ボウフラ踊り、というフラフラっとした踊りに癒されることでしょう。また、続いての魁春と雀右衛門の踊りも安定しています。ベテランのこの2名の踊りが見られるのも正月らしいでうよね。




 そうして、鳶姿の梅玉と芝翫のキビキビとした踊りが続きます。芝翫がキビキビしているんです。一方で梅玉は、芝翫ほどキビキビはしていないのですが、それが老練さを醸し出していて、とてもよい二人の踊りとなっています。二人の踊りの違いに注目するのも楽しいと思います。

 そうして、後半には獅子舞が登場です。いや、正月らしい。さすが、歌舞伎座で演じられ獅子舞だけあって、獅子舞のレベルが高い、気がします。日本で一番レベルの高い獅子舞を、この歌舞伎座で、それも正月に見られるなんて、なんと贅沢なことでしょう。その贅沢さを、ビギナーのみなさんも理解していただきたく思います。いや、理解しなくてもよいのですが、楽しんでいただけると思います。

 そして獅子頭から登場する役者さんにも注目です。出演者は、梅玉、芝翫、福之助、歌之助、鷹之助、玉太郎、雀右衛門に魁春。いや、正月ならではの贅沢は面々による楽しいお芝居でした。みなさま、ありがとうございました。





★★★★☆(3)松竹梅湯島掛額(7:12-8:42)
 さあ、三幕目は猿之助の登場です。「松竹梅湯島掛額」とかいて、「しょうちくばいゆしまのかけがく」と読みます。なんでも、河竹黙阿弥が二つのお芝居をつなぎ合わせて脚色したお芝居とのことです。そのため、途中でいきなり物語が変わります。かなり唐突に変わりますが、それも歌舞伎。お正月らしく楽しめるでしょう。ストーリーはそんなに難しくなく、わりきって楽しむお芝居ということで四つ星としました。

 ビギナーの私が一番驚いたのは松江さんです。劇中、松江がハヅキルーペを取り上げてコミカルな場面を演じるのですから! あの、真面目で役者一筋という印象の松江さんが、ハヅキルーペをかけたり、踏んづけたりして笑いを誘っているのに、ちょっと動揺しました。心の中で「がんばって!」と念じている自分がいました。でも、会場からは大きな笑いが起こっていましたので安心しましたから。いや、正月一番の驚きのシーンでした。

 さて、このお芝居は八百屋の娘、お七をめぐる物語です。このお七が天女になったり、火の見櫓に登ったりと話がいろいろと展開します。お七役は七之助。いや、七之助、美しいですよね。

 そして、芝居をどんどん進めていく役割を長兵衛役の猿之助が演じます。猿之助のキャラクターにぴったりとあったお芝居で、会場からは安心感がひしひしと伝わってきます。さすが猿之助です。猿之助さん、怪我した手のことが筋書きに書いていました。怪我をしたのは一昨年の10月。まだ本調子ではなくて、回復にはまだ時間がかかると書いてあります。一見、問題はなくお芝居にも影響はないようには見えますが、心配ですね。はやく全快してほしいところです。




 お芝居としては、おなじセリフを、違う役者が繰り返して話して笑いを誘う「オウム」の場面があったり、「お土砂(おどしゃ)」をふりかけると、ふにゃふひゃになってしまう、など楽しい場面がたくさんあって、眠る暇はないでしょう。ビギナーさん、安心してください。

 そして最後は、火の見櫓にお七が登るシーンです。ここからは、なんと文楽のシーンの焼き直しなのです。黒衣が登場して口上の場面になるのですが、これがなんと文楽と同じ。文楽を観たことがない人は「?」となるかもしれませんが、文楽を知っている人は絶対に「にんまり」したはずです。「ああ、ここからが文楽の場面なのだな」とわかる仕組みになっているのですから。もっとも、本物の文楽の口上はやる気のない、力のない声で口上を述べるのですが、この場面の口上は結構力が入っていましたから。

 そうして、七之助の人形振りの挑戦です。人形にあやつられているように七之助が演じるのです。手足の動きはもとより、顔の表情も無表情で。しばらく人形振りが続くと、ハシゴに登るシーン直前で、人形振りが終了し、歌舞伎へと戻ります。この脚色が楽しいですよね。七之助さん、お疲れ様でした。

 夜の部はこの最後の幕の印象が強くて、絵本太功記は影が薄れてしまいましたが、とてもよい新年の演目の締めだと思いました。みなさま、すばらしいお芝居、ありがとうございました。




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