菊五郎と松緑!「二月大歌舞伎(2019)」(昼の部)初心者向けオススメ度の星評価!

 好評の歌舞伎初心者向け、オススメ度の星評価表!!現在東京・歌舞伎座で公演されている「二月大歌舞伎」(昼の部)の初心者向けのオススメ度表です。★が多いほど必見です。満点は★★★★★。公演会場での「盛り上がり度」、「眠っている人度」、「口コミ度」などを総合的に判断しました。★:オススメ、☆:イマイチ

<昼の部>
★★★★☆(1)義経千本桜 すし屋(11:00-12:40)
★★★★☆(2)暗闇の丑松(1:10-2:55)
★★★★☆(3)団子売(3:15-3:28)




【総評】
・総合点★★★★☆
 二月大歌舞伎の初心者向け星評価は堂々の四つ星です。それは、一幕目の「義経千本桜・すし屋」がとても有名な歌舞伎の演目で、初心者は是非見るべきという視点からの四つ星です。今月の昼の部は、時代物の「義経千本桜」、新歌舞伎の「暗闇の丑松」、たのしい踊りを楽しめる所作事「団子売」とバランス良く歌舞伎を楽しめるということも含めて四つ星としました。歌舞伎初心者のみなさんは、幕見席でもよいですので、ぜひ一幕目の「すし屋」は観るようにしましょう。

 また、今月は「初世尾上辰之助三十三回忌追善狂言」ということで、今月活躍している尾上松緑のお父さんの追善公演となっています。辰之助さんは40歳という若さで亡くなったんですって。でもお父さん、安心してください。松緑が頼もしく頑張っています。観客のみなさまは、天国からお父さんが観ている、という感慨深さとともにお芝居を楽しめるでしょう。歌舞伎座1階には辰之助さんの写真とちょっとした祭壇が設けられていますが、これも歌舞伎の長い歴史を感じる雰囲気を醸し出しています。

 そして、今月のイヤホンガイドは絶対に借りなければなりません。亡くなる前の辰之助さんと、そのお父さんの松緑さん(現松緑さんのおじいさん)、そして、現在の松緑さんが5歳のときの秘蔵インタビューが聞けるのです。いやあ、面白かった。そのあとの、松緑さんのインタビューで当時のこの録音のことを触れているのですが、いや、聞きどころ満載です。 ぜひお楽しみください。





【演目ごとの講評】
<2日初日の観劇記録です>
★★★★☆(1)義経千本桜 すし屋(11:00-12:40)
 さあ、一幕目は歌舞伎の超有名な演目「義経千本桜」の中の、これもまた超有名で何度も演じられる「すし屋」です。「すし屋」といっても、すし屋家業が繁盛する様子を描いた物語ではありませんのでご注意ください。複座な人間模様が繰り広げられます。予習をしていないと、途中で内容がわからなくなる可能性大です。ビギナーはしっかりと予習をして臨みましょう。とくに、芝居後半は「もどり」といって、実は主人公はこういう人だったという種明かしのような場面が続きますので、予習しないとちんぷんかんぷんでしょう。ご注意ください。

 どんな物語かズバリまとめると、「勘当して親不孝だと思っていた息子のいがみの権太(松緑)が、自分の命を引き換えに平家方の維盛を助ける」という話です。維盛がすし屋の弥左衛門の奉公人の弥助と身分を偽ってかくまわれ、また、維盛の妻子だと思われたのが、実は権太の妻子、維盛の首だと思っていたのが、実は別人(小金吾)の首など、後半に「実ハ」が続く種明かしの連続ですので、しっかりとフォローしましょう。

 舞台は在郷唄(ざいごうた)が流れるすし屋の店頭のシーンからスタートです。お里演じる梅枝とおくら演じる橘太郎が舞台に登場します。橘太郎の女方は、あまり観ることがないのでレアかもしれません。ビギナーの私は大好きなのです。その理由は、吉本新喜劇の桑原和男に通じるといいますか、志村けんの「あんだってばあさん」に通じるといいますか…。良い味を醸し出していますので、みなさんも注視ください。

 さて、そうして花道から弥助役の菊之助が登場して、お芝居は展開していきます。お里は弥助に「ほの字」なのです。後半に重たい話になりますが、とてもわかりやすい導入ですよね。しかし、ここで油断すると眠ってしまいますので要注意です。このお里と弥助のやりとりが結構長い。舞台が変わらずに二人の会話劇が続くので、注意しましょう。でも、あとを考えるとここで眠っておいた方がよいかもしれません。

 このお芝居の見どころは、権太が正体を明かす「もどり」でしょう。父親の弥左衛門に「不届き者!」と刺されたあとに、権太の見せ場が続きます。自分の妻子をも犠牲にして忠義を果たそうとする権太の壮絶な場面が見どころです。また、弥助に思いをはせるお里の口説き(くどき)に対しても、「まってました」と会場から大向こうさんの声がかかっていました。梅枝が安定した演技を披露しています。若いのにたいしたものです。

 時代物の名作を松緑が演じきっていますので、ぜひビギナーはこれを機会に「義経千本桜」の一部を鑑賞しましょう。みなさま、ステキな舞台をありがとうございました。





★★★★☆(2)暗闇の丑松(1:10-2:55)
 芝居が終わると後ろの席から「これって歌舞伎?」という声が聞こえてきました。はい。二幕目は新歌舞伎「暗闇の丑松」です。「新歌舞伎」とは明治から昭和初期にわたって作られた歌舞伎芝居のことです、とイヤホンガイドが説明してくれていましたが、確かに歌舞伎というより、時代劇でしょうか。このお芝居は数々の新歌舞伎の名作を生み出した「長谷川伸(はせがわしん)」の作品です。最近では「刺青奇偶(いれずみちょうはん)」が歌舞伎座で演じられてましたが、ほんとうにたくさん脚本を書いた方ですので、ビギナーはこの機会に長谷川伸作品にふれるとよいと思います。わかりやすく、肩の力を抜いて楽しめるお芝居ですので、ビギナーとして観るべきの四つ星としました。これも歌舞伎なのだ、というのを味わっていただければと思います。

 新歌舞伎と言うこともありストーリーは比較的わかりやすいです。ビギナーは予習なしでも楽しめると思います。どんなお芝居か短くズバリいいますと、「料理人の丑松は、信頼していた兄貴分の四郎兵衛(しろべえ)に恋女房お米を任せていたが、実は四郎兵衛はお米にひどいことをされていたことがわかり、最後に四郎兵衛に復讐を果たす」という感じでしょうか。哀しい物語です。

 舞台は薄暗い、といいますか暗闇からのスタートです。BGMもなく、静かな江戸の夜の雰囲気で幕が開きますと、長屋の二階でお米とその養母お熊がなにやらもめています。小熊はお米を金持ちの妾にしようと説得しているのですが、丑松が好きなお米は聞き入れません。近くには怪しい浪人も様子をみています。すると帰ってきた丑松と言い争いになり、丑松は小熊と浪人を殺してしまいます。そうして物語は展開していきます。

 イヤホンガイドでも言っていましたが、このお芝居は殺人の場面が数々あるのですが、実際に人を殺めるシーンはありません。冒頭のお熊と浪人を殺めるシーンは、階下からの物音でその雰囲気を伝え、そして最後の風呂場の場面では…、という具合です。今月の夜の部「名月八幡祭」でも、最後に美代吉が殺されるのですが、その場面も障子の影で、と似たような場面ではありました。

 主役の丑松を菊五郎が演じています。貫禄のある男、影のある男を見事演じきっています。ちょっと出ているお腹が気になりますが、それも貫禄にいい味をつけています。また、血気盛んな男衆として松也が登場しますが、これもまた格好いい。もともとがいい男なのでサマになっています。

 そして、このお芝居の一番のスパイス、功労者は橘太郎です。大詰めでの湯屋の三助(江戸時代の銭湯の雑用係)として、舞台せましと走り回り、桶を並び替えたり、湯をかき混ぜたり、チョロマカチョロマカ動く演技は、迫力があります。そして、見ていて楽しい。いや、なにより驚いたのは、橘太郎の筋骨隆々(ほめすぎ)の体です。いつも着物を着ているので知りませんでしたが、それなりに引き締まった体をふんどし一丁で披露しておりました。物語が暗い話の中で、ストーリー的にも、舞台上の華やかさ、という視点でも、芝居をひきしまった場面を熱演しておりました。初日にもかかわらず、手際よく桶を並び替えていたのはさすがプロですよね。あっぱれです。

 お芝居はズバリ、暗い話のまま終わってしまうのですが、橘太郎のその場面がとても印象的なお芝居でした。みなさま、とくにほんとうに湯屋の裏側にいるような素晴らしい舞台を用いただいた、大道具のみなさま、ありがとうございました。ぜひ、あの舞台に登って、橘太郎のように飛んで跳ねてみたい!と思いました。





★★★★☆(3)団子売(3:15-3:28)
 二幕目の「暗闇の丑松」のラストシーンの衝撃に、劇場は暗く静まりかえっていましたが、幕が再び開いて昼の部最後は、華やかな所作事、舞踊ものの「団子売」です。明るい幕開けに会場が再び息を吹き返したような趣です。このような場面の転換によって、気分がパーッと明るくなるのも、歌舞伎座でお芝居をみる楽しみになりますよね。世界が180度変わった感じがしますから。

 さて、楽しい舞踊ものです。時間も短く13分ほど。あっという間に踊ります。幕が開くと、正面に天神橋が描かれた壁が広がります。そして、4挺4枚の竹本連中が華やかな演奏を奏でます。青い裃が新鮮、というか、格好いいですよね。

 芝翫と孝太郎が小気味よく踊ります。芝翫のキビキビした踊りは、本当にみていて気持ちよいですよね。今回は手踊りも披露するのですが、それも優雅に踊っています。手踊りというのは、いかにも日本舞踊というかんじで、まったりした印象でしたが、竹本連中のリズムに乗ってみる手踊りは、リズミカルで爽快なものです。いや、西洋のダンスとは違う奥深さを感じることができると思います。

 そして、孝太郎。いや、この幕の孝太郎はとても美人に見える!もともと踊りが上手なのですが、いつもとは違ってとても美しく見えたのはビギナーの私だけではないでしょう。孝太郎さん、素晴らしい踊りを見せていただき、ありがとうございます。

 そして後半に、おかめとひょっとこの面をかぶってあっという間に幕。いや、もう少し長く踊りを観てみたいと思いました。素晴らしい踊りと演奏をみなさま、ありがとうございました。




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