孝玉コンビが松緑をもり立てる!「二月大歌舞伎(2019)」(夜の部)初心者向けオススメ度の星評価!

 好評の歌舞伎初心者向け、オススメ度の星評価表!!現在東京・歌舞伎座で公演されている「二月大歌舞伎」(夜の部)の初心者向けのオススメ度表です。★が多いほど必見です。満点は★★★★★。公演会場での「盛り上がり度」、「眠っている人度」、「口コミ度」などを総合的に判断しました。★:オススメ、☆:イマイチ

<夜の部>
★★★★☆(1)一谷嫩軍記 熊谷陣屋(4:30-5:55)
★★★★☆(2)當年祝春駒(6:25-6:42)
★★★★★(3)名月八幡祭(7:02-8:50)




【総評】
・総合点★★★★☆
二月大歌舞伎の夜の部は、ビギナーが見るべきかどうかという視点からすると、堂々の四つ星です。ズバリ見るべきお芝居ということになります。それは、一幕目の「熊谷陣屋(くまがいじんや)」は歌舞伎で何度も演じられる名作、二幕目はこれも歌舞伎で正月を祝う時に演じられることの多い曽我物(そがもの)の系列にあたる舞踊もので、三幕目は新歌舞伎の名作だからです。

 では一幕見席でどれを観るべきかというと、それは一幕目の「熊谷陣屋」となります。このお芝居は複雑なストーリー、複雑な人間関係、複雑な人間模様で、まさに「複雑づくし」。これこそ「ザ・歌舞伎」ですので、ビギナーは忍耐力を試されるでしょう。最初は眠ってもかまいません。あせらずに少しずつわかっていくお芝居ですので、まずは観ることで最初の一歩を踏み出していただきたく思います。

 そして、何と言っても三幕目には、仁左衛門、玉三郎の往年の「孝玉コンビ」がまた復活です。このコンビを見られるのも今後限られるでしょうから、貴重な舞台を見逃さないように、ビギナーは幕見ででもご覧ください。





【演目ごとの講評】
<2日初日の観劇記録です>
★★★★☆(1)一谷嫩軍記 熊谷陣屋(4:30-5:55)
 夜の部は「一谷嫩軍記 熊谷陣屋(いちのたにふたばぐんき くまがいじんや)」で開幕です。歌舞伎・文楽で何度も演じられる名作です。平成31年5月の国立劇場小劇場では、一谷嫩軍記が通し狂言で演じられう予定ですね。さて、今回のイヤホンガイドでは、「命の重み」「戦を厭う(いとう)」「不朽の名作」と繰り返し語っていました。ズバリ、重たい話です。超重たい話。そして人間関係は超複雑。目も当てられません。ちなみにこちらに以前の配役での人間関係図を記しましたのでご参照ください。

 さて、もちろん初心者は万全に予習をして臨んでください。予習をしても、何度見てもよくわからない、理解するのに時間がかかるお芝居ではありますが。奥が深すぎて初心者にはお手上げかもしれませんが、そういうときは、舞台上の小道具や可愛い鳩八(漢字の「八」が鳩が向かい合って書かれているマーク)などに着目して、集中力を保つように努力しましょう。とにかく、それぐらい複雑なので覚悟して観ることとしましょう。

 下手に根元に制札(木の札)が植えられた桜の木がそえられ、舞台中央には鳩八のマークが描かれた陣屋の舞台でスタートです。物語はゆっくりとゆっくりと展開します。まずは、吉右衛門演じる直実が敦盛を討った場面をとうとうと語るのですが、会場を見回すとここで寝入ってしまう方が多いようでした。結構長い間一人語りが続くのです。しかし、ここが最初のみどころですので、体をつねって耐えていただきたく思います。そして、有名な「制札の見得」を見逃さないように。ほかにもみどころはたくさんあるのですが、ほかはぜひイヤホンガイドを頼りに確認くださいませ。

 ビギナーの私は、今回のを含め4回「熊谷陣屋」を観ていますが、4回見てようやく安心して観ることができるようになりました。そして、4回目にして新たに下記のことに気づきました。
 ・敦盛が残したという青葉の笛を吹くシーンでは、笛を吹く前にきちんと手を洗っていました。いや、表現が細かい。歌舞伎の繊細さ、日本文化の奥ゆかしさを改めて感じることができました。
・最後に登場する弥陀六のセリフ、出番が結構長いことにも改めて気づきました。といいますか、これまではおそらくこのあたりでは体力尽きて意識を失っていたのかもしれませんが。大事な役どころを歌六がつとめていました。

 さて、でもどうしても眠ってしまったビギナーも、最後だけはぜひ目を開けていただきたい。そして最後のみどころ「あー、十六年はひと昔。夢だ夢だ」というセリフだけは、聞くようにしましょう。これだけ覚えておけばビギナーとしてはよしとしてよいと思います。

今回の熊谷陣屋は、直実を吉右衛門、その奥さんの相模を魁春、敦盛の母である藤の方を雀右衛門が演じています。2日は初日だったのですが、すでに完成度の高いお芝居でした。ほか、又五郎が軍次、最後の重要な役である弥陀六を歌六が演じきっていました。みなさま、素晴らしいお芝居をありがとうございました。




★★★★☆(2)當年祝春駒(6:25-6:42)
 重苦しい名作に続いての二幕目は、明るい長唄舞踊の「當年祝春駒(あたるとしいわうはるこま)」です。これは、寿曽我対面(ことぶきそがのたいめん)を観たことがある人なら、とてもわかりやすいと思います。だって、登場人物と設定、ストーリーが同じなのですから。とはいっても、舞踊ですので、ストーリを知らなくても楽しめる一幕です。どうしてもストーリーを予習したいかたは、その寿曽我対面を予習しておくと内容がとてもわかると思います。

 このお芝居の注目は、今月の主役でもある松緑の息子、左近です。左近が曽我五郎役を堂々とつとめています。五郎と十郎は、朝比奈(又五郎)に招かれて花道から登場するのですが、いや左近さん立派です。初日にも関わらず堂々と演じきっていました。もう立派なプロです。大きなあたたかい拍手が会場からあがっていました。そして、梅丸も米吉もとてもキレイ。これら若手を、又五郎、錦之助、そして梅玉が盛り立てるような舞踊ものです。

 最後は、曽我物のお決まりの狩場の二枚の切手をわたし「切って恨みを果たすべし」と工藤祐経役の梅玉が語って幕です。肩に力を入れずに楽しめるお芝居でした。みなさま、ありがとうございました。





★★★★★(3)名月八幡祭(7:02-8:50)
 二月大歌舞伎のトリは、新歌舞伎「名月八幡祭」です。このお芝居は文句なしの満点五つ星。ビギナーにはぜひ観ていただきたいお芝居です。新歌舞伎ですので、ストーリーも複雑ではなく予習なしでも楽しめるでしょう。いや、予習なしでその場でストーリーを楽しんだ方がよいかもしれません。

 チェックしていただきたいポイントは、「孝玉コンビを観ることができる」「不条理な不思議な世界が表現されている」の2点でしょうか。ストーリーをズバリ簡単にまとめると、「実直な越後の行商人である紳助が、自由奔放な深川芸者の美代吉(みよきち)に翻弄されて自分の財産を失い、気が狂って美代吉を殺してしまう」という内容です。凄惨な物語です。

 芸者にかどわかされて気がふれて殺人を起こす、というお芝居は歌舞伎ではほかにもあります。「籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)」です。ビギナーのわたしは、このお芝居をはじめて観たときに衝撃を受けました。新歌舞伎ではありますが、こういう演目が歌舞伎であるということを知りませんでした。最後のセリフ「籠釣瓶、切れるな」のセリフに身震いしました。さて、この名月八幡祭も同様なストーリーですので、歌舞伎が表現する不条理な世界を、ぜひビギナーも体験いただきたいと思います。

 配役は紳助に松緑、紳助をかどわかす深川芸者美代吉に、なんと玉三郎、その情夫の三次にこれまたなんと、仁左衛門という超豪華なキャスト。玉三郎と仁左衛門の二人がこんお芝居で夫婦役を演じるのは、なんと30年ぶり!とイヤホンガイドが言っていました。いやいやこのお二人の夫婦は、本当に息がぴったり。初日にも関わらずこちらが恥ずかしくなるほどのアツアツぶりを演じておりました。二人が出る出番は短いのですが、ぜひ注目しましょう。

 このお芝居のみどころはいろいろあるのですが、ビギナーとしては、舞台が一面の川になる場面にあっと驚くことでしょう。花道も含めて水面の青色一色になるのは、本当に美しい光景です。ぜひ、歌舞伎座の大道具さんの日本一の技術を味わっていただきたく思います。大道具さん、ありがとうございます!

 そして最後は、気のふれた紳助の立ち廻りです。松緑の大きな目が、気が触れた紳助を、ほんとうに気が触れたように演じていました。そして紳助が美代吉を殺めたあと、町人たちに捉えられると体を抱えられて胴上げのような状態で持ち上げられ、「ワッショイワッショイ」と花道から下がっていくのです。人を殺したあとにワッショイワッショイって一体…。幕が閉まった後、会場には重苦しい雰囲気が漂っていましたが、これも役者陣の素晴らしい演技のなせる技です。それにしても、「殺人という狂気」と「お祭りのにぎやかさ」を対比させる、この表現に唖然としました。そして、舞台上には大きな丸い月…。

 ビギナーにもいろいろと楽しめるお芝居ですので、ぜひこの不条理な世界を体験いただきたいと思います。松緑さん、大道具さん、そしてみなさま、すてきな舞台をありがとうございました。




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