女鳴神は必見!「三月大歌舞伎(2019)」(昼の部)初心者向けオススメ度の星評価!


 好評の歌舞伎初心者向け、オススメ度の星評価表!!現在東京・歌舞伎座で公演されている「三月大歌舞伎」(昼の部)の初心者向けのオススメ度表です。★が多いほど必見です。満点は★★★★★。公演会場での「盛り上がり度」、「眠っている人度」、「口コミ度」などを総合的に判断しました。★:オススメ、☆:イマイチ

<昼の部>
★★★★★(1)女鳴神(11:00-12:05)
★★★★☆(2)傀儡師(12:35-12:59)
★★★★☆(3)傾城反魂香 序幕(1:19-2:06)
★★★★☆(4)傾城反魂香 大詰(2:21-3:38)




【総評】
・総合点★★★★☆
 平成31年三月大歌舞伎(昼の部)の初心者向け星評価は四つ星です。歌舞伎の醍醐味が凝縮された「女鳴神(おんななるかみ)」、楽しい所作事の「傀儡師(かいらいし)」、歴史モノの名作「傾城反魂香(けいせいはんごんこう)」ととてもバランスがよい演目ですので、ビギナーにも堂々とオススメできます。

 一幕目の「女鳴神」は、「鳴神」の鳴神役が女性のバージョン。「鳴神」は歌舞伎十八番でも有名な演目で、この「女鳴神」はそれの対となる作品でもありますのでビギナー必見です。かつ「ザ・歌舞伎」の雰囲気を楽しめる荒事ですので、楽しめると思います。

 最後の「傾城反魂香」は、とても有名な演目でたびたび演じられます。今回の大詰にあたる「土佐将監閑居の場」のみ演じられることが多いのですが、今回はその前段もお芝居で紹介されるため、すんなりとお芝居に入っていけると思います。このお芝居はとても有名ですので、ビギナー必見です。幕見でしか観られない人は、「女鳴神」、最後の幕の「傾城反魂香 大詰」だけでも観るようにしましょう。




【演目ごとの講評】
<3日初日の観劇記録です>
★★★★★(1)女鳴神(11:00-12:05)
 三月大歌舞伎の一幕目は、歌舞伎の雰囲気を十分たのしめることができる「女鳴神」です。ストーリーはわかりやすいと思います。予習はいらないかもしれません。ビギナーはぜったいにチェックすべき演目でかつ、とても楽しいお芝居ということあり、久しぶりの満点としました。ぜひ、幕見でもよいですからチェックしましょう。

 ズバリどんな話かといいますと「もろもろの事情でへそをまげてしまって雨を降ることを封じ込めている鳴神尼に、イケメンの雲野絶間之助(くものたえまのすけ)が色仕掛けで接近。鳴神尼にお酒をのませて酔わせたそのすきに、その雨を封じ込めている神聖な『しめ縄』を切り落とすことで世の中に雨をとりもどす」という物語です。この二人を主軸ととらえておけば、すんなりとお芝居に入り込めると思います。

 配役は、鳴神尼に片岡孝太郎、雲野絶間之助に鴈治郎です。二人のベテランの活躍により、初日にもかかわらずとても安定したお芝居を楽しめました。いや、この二人のやりとりは、けっこう艶やかなシーンが多く、孝太郎がほんとうに女性に見えてしまうほどでした。最近、孝太郎の女方がきれいだと思います!この幕ではとくに孝太郎の紫の法衣を鴈治郎がゆっくり脱がせるシーンなどは、観ている方が恥ずかしくなってしまいました。お二人さん、さすがです。

 このお芝居は、歌舞伎十八番「鳴神」の別バージョンということもあり、本物の「鳴神」との対比も楽しめるお芝居になっています。この「鳴神」実は今年1月の新橋演舞場での初春歌舞伎公演で演じられていまして、このときは鳴神を右團次、雲野絶間姫を児太郎が演じていました。このときのキャストも素晴らしいのですが、今回の孝太郎・鴈治郎バージョンも申し分ないお芝居となっております。

 舞台上は、歌舞伎十八番のしきたりにならって上手に「鳴神」、下手に「片岡孝太郎」という立て札がかかげられており、昔の歌舞伎小屋にいるような雰囲気を醸し出しています。また、「鳴神」では冒頭に二人の坊主のやりとりでスタートするのですが、この「女鳴神」では、坊主の代わりに二人の尼を演じる猿四郎、猿三郎の「聞いたか、聞いたか…」のこっけいなやりとりでスタートします。

 鳴神尼をかどわかす色男役を鴈治郎が演じていますが、なよなよっとしているところに好感をもてます。しけ(束ねた髪からたれる一筋の髪の束)が本当に似合う役者さんだと思います。さすが、和事のスペシャリスト。最後の、岩場を上り詰めてしめ縄を切るシーンも熱演していました。

 見どころは後半に凝縮されています。途中眠ってしまった人も、鳴神尼が怒ったあたりから目を覚ましましょう。ビギナーとしては、柱にからまって見せる「柱巻きの見得」「不動の見得」お芝居最後に非毛氈の台の上で見せる「絵面の見得」はぜひ記憶しておきましょう。柱巻きの見得は、なんだかなよなよっとして可愛い見得です。ほか、花道にさがった鳴神尼が再び舞台にもどる「押し戻し」も、伝統的な面白い脚色ですよね。

 そして今回は、絶間之助に斬られたしめ縄からは龍がなんと4匹も飛び立ちました。正月の新橋の「鳴神」ではたしか1匹だけだったような。とにもかくにも楽しめるお芝居ですので、ビギナーはぜひチェックしましょう。みなさま、楽しいお芝居をありがとうございました。





★★★★☆(2)傀儡師(12:35-12:59)
 豪快な荒事に続き、二幕目は幸四郎による所作事です。20分足らずのとても短い舞踊モノです。主役は幸四郎一人なのですが、後見人の京純(きょうすみ)さんの活躍も注目です。京純さんは中村雀右衛門さん一派で、国立劇場で毎年夏に開催される小学生のための歌舞伎教室でも雀右衛門さんのサポートをされております。

 さて、傀儡師とは、江戸時代に街で活躍した芸人とのことです。「傀儡」というと「傀儡政権」などという言葉を想像すると思いますが、イヤホンガイドでもまさにそのようなことを語っていました。

 楽しそうに踊る傀儡師を幸四郎が楽しそうに演じていました。踊っている幸四郎の表情がとてもやわらかく、楽しそうな雰囲気がとても伝わってきました。着ている着物の柄もとても可愛い。赤ん坊の様々な姿が描かれた薄青色の着物が、踊りと雰囲気にマッチしていて、贅沢なひとときを楽しめると思います。清元の緑色の裃も舞台に映えていました。花しゃくしをもっての踊りも美しく、幸四郎の踊りのうまさを実感できる所作事です。みなさま、ありがとうございました。





★★★★☆(3)傾城反魂香 序幕(1:19-2:06)
★★★★☆(4)傾城反魂香 大詰(2:21-3:38)
三月大歌舞伎昼の部の最後は、有名な演目の「傾城反魂香(けいせいはんごんこう)」です。しばしば演じられる有名な演目ですので、ビギナーはこの機会にぜひチェックしておきましょう。

その「傾城反魂香」でも度々演じられるのは「土佐将監閑居の場」でして、今回はその前段の話が演じられるといういわばレアな公演となっております。お芝居により入り込みやすくなっていますので、この機会に幕見席に並んでみてみましょう。

ストーリーは、登場人物も少なくそんなに複雑ではありません。しかし、油断すると記憶を失ってしまうであろう場面が多々ありますので、ビギナーはしっかりと予習しておきましょう。

どんなストーリーかとズバリ簡単に説明しましょう。まず「高嶋館・竹藪」の幕は、「陰謀によって捕らえられて縄で縛られた狩野元信。その縛られている縄を必死の思いで引きちぎり、それによる出血で障子にトラを描くと、なんとそのトラが現れて元信を救う」というお話です。元信を幸四郎が演じています。障子にあれよあれよとトラが描かれるシーンは小道具さん大活躍です。不思議な現象を体験できます。

そして「土佐将監閑居の場」。こちらはどんなお話かと言いますと、ズバリ「絵描きの又平は、師匠の土佐の名字を名乗らせてほしいと師匠にお願いするのですが、師匠がなかなか聞き入れてくれない。すると、もうこれは死ぬしかないと絶望して、最後に手水鉢(ちょうずばち)に絵を描いたところ、その絵に奇跡が起こり、これを師匠も認めてめでたく名字をいただいた」というハッピーエンドの物語です。

又平を支える妻のおとく、師匠の土佐将監など又平を取り巻く人々の支えが微笑ましいお芝居ですね。今回、狩野元信を幸四郎、又平を白鸚、おとくを猿之助が演じています。幸四郎は、狩野元信の弱々しさをよく表現しておりました。白鸚は吃音の又平を熱演していましたが、そんなに吃音をひどくしなくてもいいのでは…と思えるほどの熱演ぶりでした。

そしてやはり猿之助!猿之助が芝居に登場すると、舞台が本当に引き締まって安定感が増すと思います。今回は妻のおとく役で、猿之助らしいよい演技をしておりました。又平が手水鉢に絵を描いてそれが裏側に透けてみるときに、おとくが驚くのですが、その驚きぶりが最高。腰を抜かして驚くお手本のようにとても自然な演技をしておりました。お決まりの演目のお決まりのお芝居ですが、そこをきっちりこなしている役者魂を改めて感じさせられました。ビギナーのわたしにはとくにひいきにしている役者さんはおりませんが(しいてあげれば雀右衛門)、公平な目で見ても、存在感のある、素晴らしい役者さんだと思います。今後の活躍を期待したいですね、

 さて、このお芝居のみどころですが、ビギナーとしてオススメしたいのがトラの活躍です。着ぐるみを着たトラが舞台に出てくるんです。それも二人で操る二人立ちのようなトラで、なかなかの迫力。その暴れるトラと鴈治郎の立ち廻りがビギナーにとっては楽しい場面、いや、一番記憶に残るシーンとなるでしょう。

 さらに、「土佐将監閑居の場」にも冒頭にトラが草番の影から「ニョロっ」と顔をだすのですが、この場面も会場から優しい笑い声が漏れていました。ちょっと堅苦し話のスパイスとして、トラさんは大活躍です。

 このお話しは、最後に又平が名字を名乗ることを許され、裃を着て立派な絵描きとなって旅立っていくというハッピーエンドのお話しなのですが、会場のあちこちからは鼻をすすって鳴いている音が響いていました。ジーンとする話ですので、みなさまもどうぞ感動してください。みなさま、感動をありがとうございました。




スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

スポンサーリンク