髪結新三は初心者必見!「国立劇場平成30年3月歌舞伎公演」オススメ度の星評価!

好評の歌舞伎初心者向け、オススメ度の星評価表!!現在、国立劇場大劇場で公演中の「3月大歌舞伎」の初心者向けのオススメ度表です。★が多いほど必見です。満点は★★★★★。公演会場での「盛り上がり度」、「眠っている人度」、「口コミ度」などを総合的に判断しました。★:オススメ、☆:イマイチ

★★☆☆☆(1)増補忠臣蔵(ぞうほちゅうしんぐら)
★★★★☆(2)梅雨小袖昔八丈 髪結新三(つゆこそでむかしはちじょう かみゆいしんざ)





【総評】
・総合点★★★☆☆
 平成30年国立劇場3月歌舞伎公演のビギナー向けの星評価は三つ星としました。今月は「増補忠臣蔵」と「梅雨小袖昔八丈・髪結新三」の二部構成となっています。そして、特別当日券という「梅雨小袖昔八丈・髪結新三」のみが鑑賞できるチケットも発売されています。国立劇場版の幕見席といったところでしょうか。しかし、4800円というのはちょっと高いですね。国立劇場内のコインロッカーが10~20円なのですから、1000~2000円程度まで勉強してほしかった。そうするとビギナーも足繁く通うことができると思うのですが。
 内容については、髪結新三(かみゆいしんざ)はとても有名な演目ですので、ビギナー必見でしょう。最初の「増補忠臣蔵」はどちらかというと忠臣蔵の裏話、裏で進行する話ですので、初見のビギナーにはきついと思います。その背景を想像しながら見る必要があるためです。そのため、総合点は三つ星としました。





<3月17日(土)の観劇結果です>
★★☆☆☆(1)増補忠臣蔵(ぞうほちゅうしんぐら)
 ビギナー向けの星評価としては、二つとしました。ビギナーで興味のある方はみてほしいが、無理して観なくてもよいでしょう、観ると混乱するかも、という評価です。いずれにせよ忠臣蔵ビギナーは綿密な予習が必要となりますので、しっかり予習しましょう。

 これは、「仮名手本忠臣蔵」を「スターウォーズ」に当てはめると、「エピソード4」の前の裏話にあたる「ローグ・ワン」のような位置づけにあたる作品と強引にこじつけられないこともありません。「吉良家(高師直屋敷)への討ち入り」を「デススターの破壊作戦」とした場合です。本蔵が吉良家(高師直屋敷)の屋敷の地図を手に入れた、というところからそう思っただけですが…。

 さて、この話の主人公は、若狭之助です。一方の本筋の仮名手本忠臣蔵は、高師直(こおしもろのう=吉良上野介)に侮辱された塩治判官(えんやはんがん=浅野内匠頭)が、江戸城内で高師直に斬りかかるという大事件を起こしてしまい、その結果、塩治家はお家取りつぶし、そして、切りつけた本人は切腹するという流れです。そしてその主君の恨みを晴らすべく、塩治家の四十七士が高師直家に討ち入るという話ですね。「日本で一番有名な復讐の物語」とある外国の方が言っておりました。



 この本筋と若狭之助のかかわりですが、ビギナーだとよくわからないと思います。実は、もともと高師直を憎んでいて、いつか斬ってしまおうと思っていたのは塩治判官ではなく、実はこの若狭之助だったのです。しかし、二人の仲が悪く、これを放っておくと悪い方向に事が進んでしまうかもしれないことを危惧した若狭之助の家来の加古川本蔵(かこがわほんぞう)は、若狭之助にだまって高師直に賄賂を贈り、高師直を丸め込みました。つまり、主人の若狭之助が高師直に斬りつけることがないように若狭之助に忖度(そんたく)しての行動です。

 そうした結果、いつもはとげとげしい高師直が、この日に限っては、若狭之助にへつらってぺこぺこします。若狭之助にするととんだ拍子抜け。しかし、一方の高師直はすっきりしません。賄賂をもらったとは言え、大嫌いな若狭之助にへつらってしまうというやり場のない怒りの矛先が向いたのが、なんど塩治判官だったのでした。塩治判官にすると、とんだどばっちりです。そしてとまらなくなった高師直の塩治判官への侮蔑はどんどんエスカレートし、そして有名な「フナ侍」と罵声を浴びせ続けることで、とうとう塩治判官の堪忍袋の緒が切れて、切りつけた、ということなのです。

 さらに、その高師直に斬りかかった塩治判官を押さえつけて止めに入ったのは本蔵でした。主人の若狭之助が斬りかかるのかが心配で殿中にいたため、塩治判官の行動に反応して押さえつけたため、塩治判官は高師直のとどめを刺すことができなかったのでした。

 本蔵の忖度のために、若狭之助は一大事を起こすことがなくお家は安泰を保った一方で、世間から若狭之助は「へつらい武士」と陰口をたたかれます。高師直にへつらって賄賂を送ったためです。そのため、若狭之助は本蔵を憎みむのでした…。

 かなり長くなりましたが、そのような背景なのです。



 配役は、若狭之助を鴈治郎、加古川本蔵を片岡亀蔵が演じます。主君を思うがためにとった行動で主君に逆に迷惑をかけてしまった、二人の関係と葛藤を描いたお芝居です。背景が複雑なだけに、ビギナーにはしんどいでしょう。眠っている人も多数みかけました。にぎやかな立ち回りなどもないですしね。上方歌舞伎のなよなよっとした感じはなく、一貫して凜々しい印象でした。

 この「増補忠臣蔵」は歴代の鴈治郎が担当するお芝居とのことで、当代の鴈治郎が初めて演じております。鴈治郎は坂田藤十郎の長男です。次男は扇雀。そして、鴈治郎の息子が壱太郎(かずたろう)です。坂田藤十郎だけ、中村姓ではなく「坂田」姓なのは、この坂田藤十郎が、本来中村鴈治郎を襲名すべき所を、勝手に江戸時代の名優の「坂田藤十郎」という名を名乗ったのだそうですよ。複雑ですね。

 さてこのお芝居の鴈治郎、キリリとしています。ビギナーのわたしとしては、壽初春大歌舞伎の七福神で大黒様を演じていた鴈治郎さんが目に焼き付いていたのですが、この凜々しい若狭之助が代わりに目に焼き付きました。

 そして、片岡亀蔵です。いつもは端役の多い亀蔵ですが、準主役を立派に演じています。いや、昨年のいまごろはピコ太郎のPPAPを演じていてこの姿が目に焼き付いていたのですが、この立派な演技で、本蔵にすり替わりました。素晴らしいお芝居、ありがとうございました。





★★★★☆(2)梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)
 歌舞伎の演目でよく演じられる「髪結新三(かみゆいしんざ)」です。しばしば演じられる有名な演目です。まだ一度も観たことがないかたは、この機会に観ましょう。

 このお芝居のみどころは、江戸時代の庶民の生活が描かれているところ、とよく言われます。長屋での家主と住人の関係、髪結いという江戸時代の職業などが、そうなのでしょう。ほか、お金をめぐる面白いやりとりなども楽しめて、お芝居を観ている間は江戸時代にトリップすること間違いないでしょう。

 主役の新三を菊五郎が上品に演じています。新三は江戸時代の髪結い。出張で髷(まげ)などを調整するヘアスタイリスト。あざやかな手つきで髷を整えていく演技はとても美しいモノです。そして新三はほんとうは悪者なのですが、その冷徹な悪者も演じています。が、ビギナーとしては、ちょっと菊之助に冷徹な悪役を演じさせるのは酷な感じがしました。だって、菊之助さん、とってもよい男だし、育ちもよさそうだし、悪者からにじみでる「悪さ」「悪の臭い」を感じることは難しかった印象です。これがお父さんの菊五郎だったら、なんかすんなりと受け入れられそうです。それは、どっぷりした体形からかもしれませんが。

 ほかの配役は梅枝、萬太郎、橘太郎、梅丸、片岡亀蔵、萬次郎、團蔵などなど。とても安定して布陣です。梅丸はお熊の役を演じていましたが、山吹色の格子柄の着物がとっても美しかった。歌舞伎は着物の柄を楽しめるということを改めて知らされた演目でもありました。

 そして、最後は新三が橋のたもとで斬られて幕となるのですが、すみません。ビギナーのわたしは、この斬られるシーンが一番美しい芝居だと思いました。形式美が美しい。斬られるすがたもなまめかしいことはなく、優雅です。これぞ歌舞伎の形式美ですよね。そして、最後に菊之助と亀蔵が正座して挨拶をして幕。素晴らしいお芝居、ありがとうございました。



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