一幕目だけでよいかも…「吉例顔見世大歌舞伎(2017)」(夜の部)オススメ度の星評価!


 好評の歌舞伎初心者向け、オススメ度の星評価表!!現在、東京・歌舞伎座で公演中の「吉例顔見世大歌舞伎」(夜の部)の初心者向けのオススメ度表です。★が多いほど必見です。満点は★★★★★。
公演会場での「盛り上がり度」、「眠っている人度」、「口コミ度」などを総合的に判断しました。
★:オススメ、☆:イマイチ

<夜の部>
★★★★☆(1)仮名手本忠臣蔵 五段目・六段目(4:30-6:10)
★★☆☆☆(2)恋飛脚大和往来 新口村(6:40-7:30)
★☆☆☆☆(3)元禄忠臣蔵 大石最後の一日(7:45-9:05)




【総評】
・総合点★★★☆☆
 総合点で標準の三つ星としました。「仮名手本忠臣蔵」があるためになんとか及第点。今月の夜の部、ビギナーのみなさんには、一幕目を幕見席で見ることをお勧めします。二幕目、三幕目はかなりハードルが高い。寝てしまう危険度大です。一幕目では、仁左衛門が勘平を好演していました。いわゆる討ち入りとは違う演目のため、予習は必須です。「新口村」では、藤十郎が出演。歌舞伎の歴史上の名優を観られるということで、一見の価値はあるのでしょう。ただ、舞台が単調な印象でした。「元禄忠臣蔵」は動きが少なく、ビギナーにはきついと思います。まわりでも寝ている人が多かった。昭和初期の歌舞伎を知るにはよいかもしれません。




<11月3日の観劇結果です>
<夜の部>
★★★★☆(1)仮名手本忠臣蔵 五段目・六段目(4:30-6:10)
 「裏忠臣蔵」とも言えるとても重要で有名な演目です。「忠臣蔵」は討ち入りだけではなく、幅広い構成でできていることを知るためにも、ビギナーは絶対に観ないといけません。2016年末には、国立劇場で開場50周年記念として通し狂言で仮名手本忠臣蔵が演じられましたが、歌舞伎座でも観てみたいところです。

 ストーリーは、とても複雑です。絶対に予習をしないとついていけなくなります。あらすじはこんなかんじです。

 江戸城で高師直(こうしもろなお)に切りつけた塩冶判官(えんやはんがん)は、その処分として切腹させられ、お家は取り潰しとなりました。そんな一大事がおこっているのも知らず、その家来の早野勘平(はやのかんぺい)は、まさにそのときに、恋人のおかると逢瀬を楽しんでいたのです。それが大前提のもと、以下の部分から舞台ははじまります。主君の大事件に遭遇できなかった、そんなときに恋人といちゃいちゃしていた、というの悔やんだ勘平は武士をやめて猟師となりました。ある夜、山で猟をしていると、ひとりの武士に出会いますが、その武士は、かつての仲間の千崎弥五郎。いま塩谷判官の家来たちは、切腹した塩谷判官の復讐(討ち入り)を果たすために資金を集めており、勘平もその資金集めに協力することを千崎に約束します。

 その一方で、勘平の恋人、おかるの父親与市兵衛(よいちべえ)が、勘平が猟をしているのと同じ山を越えて家に帰ろうとしていましたが、道中で追い剥ぎの斧定九郎(さだくろう)にあって持っていたお金を奪われ、刺殺されます。そのお金とは、おかるとの逢瀬のせいで武士の資格を剥奪された勘平が、ふたたび武士として討ち入りに参加できるよう工面した大金でした。そしてその大金は、おかるを芸者として売ることにして得たお金なのです。つまり、おかるの家族は、勘平への責任を感じ、おかるを売って、そのお金で勘平に償おうとしたのでした。

 これと同じくして、その同じ山では勘平がイノシシ猟をしていました。勘平がイノシシをしとめたと思って獲物を確かめると、それはなんと人間。人を撃ち殺してしまったようなんです。そしてその人は、与市兵衛のお金を盗んだ定九郎。勘平は定九郎が与市兵衛のお金を盗んだとはもちろん知りませんが、勘平が定九郎の懐をたしかめると大金があるのに気づき、それを討ち入りの資金にしようとそのお金をぬきとります。

 そうして勘平がおかるのいる家に帰ると、与市兵衛が山で襲われて死んだということがわかり、勘平は自分が与市兵衛を殺したと思い込み苦悩します。家族などに問い詰められた勘平は、責任を取って腹を切って死んで詫びようとします。まさに死ぬ間際の最期のとき、与市兵衛を殺したのは勘平ではなく定九郎で、勘平に責がないことが判明。仇討ちの連判に血判で名をつらねることを許され、自分の腹からでる血で血判をして、絶命、忠義を果たすことができたのでした。長くてすみません。




 配役は、仁左衛門が勘平、おかるが考太郎という片岡親子です。定九郎は染五郎、ほか、彦三郎など安定した布陣です。いや、やっぱり仁左衛門はかっこいい。先月は国立劇場で「霊験亀山鉾」で一カ月好演していました。連日お疲れ様です。すらっとした姿もそうですが、声がとてもよいですよね。ほれぼれとします。ほかのみなさんも好演していました。ありがとうございました。

 全体を通して「長い」「重い」「暗い」お芝居です。通し狂言の一場面として観るのはよいかもしれませんが、「みどり」で観るのはビギナーとしてはきついかもしれません。「みどり」とは有名なお芝居の一部を取り出して演じることです。しかし、この演目を理解することで、仮名手本忠臣蔵を深く理解することができますので、辛抱して観ましょう。

 とはいいましても、定九郎がお金を奪った後に話す「ごーじゅーりょー(五十両)」というセリフや、「忍び三重」(しのびさんじゅう)という三味線の物哀しい下座音楽など、奥深い点がたくさんありますので、ぜひお楽しみください。それにしても、暗い舞台で浅葱色(あさぎいろ)の着物をきた仁左衛門が映えていた舞台でした。




★★☆☆☆(2)恋飛脚大和往来 新口村(6:40-7:30)
 近松門左衛門の作品です。代表作「曽根崎心中」の「お初徳兵衛」とならび、「冥途の飛脚」の「梅川忠兵衛」の作品群の一つのようです。梅川が女性の主役、忠兵衛が男性の主役です。上方狂言の代表作とのことですが、ビギナーにはハードルが高いでしょう。動きが少なくセリフが多く、そして長い。忍耐力との勝負です。周りを見渡すと、爆睡している方が多かった…です(涙)。まあ、それも歌舞伎。

 梅川と忠兵衛の恋の物語です。ストーリーはそんなに複雑ではないのですが、大前提をしらないとちんぷんかんぷんになってしまうでしょう。大阪の飛脚問屋の忠兵衛は、好きになった遊女梅川をお金をはらって引き受ける(「身請け」といいます)ため、商売のお金に手を付けてしまいます。これは当時の業務上横領にあたるとんでもないことで、死罪は免れないという大罪。そのため、忠兵衛は生まれ故郷の大和の新口村(にのくちむら)に逃げます。これを大前提として、舞台はそのあとの新口村から始まります。

 逃げた新口村で偶然、忠兵衛の父の孫右衛門(まごえもん)が通りかかりますが、雪に足を取られて転んでしまいます。その転んだ孫右衛門を助けたのが、忠兵衛と一緒に逃げた梅川。孫右衛門が梅川の本人だとわかると、忠兵衛が近くにいることを察するもの、罪人ですので会おうとしません。一方で忠兵衛は最期の別れとして父孫右衛門に会いたい。そうこうしているうちに、忠兵衛を探している追っ手が迫り、二人は花道を逃げて去っていく。このような内容です。

 注目は、忠兵衛を演じる御年85歳の藤十郎。梅川はその次男の扇雀が演じます。孫右衛門は歌六が演じています。登場人物が少なく、とにかくセリフが多い舞台です。藤十郎は、大みそかが誕生日とのことで、今年末には86歳になるそうです。そうは見えませんよね。とイヤホンガイドも言っていました。藤十郎、しっかりと演技していました。ただ、セリフがちょっと聞きづらかった感は否めませんが、よしとしましょう。人間国宝ですもの。

 実際のところ、この主役は孫右衛門役の歌六かもしれません。感情の機微を表現しておりました。よいものの観させていただきありがとうございました。




★★☆☆☆(3)元禄忠臣蔵 大石最後の一日(7:45-9:05)
 劇作家・真山青果による新歌舞伎です。昭和初期に発表された新歌舞伎。今月の夜の部は、一幕目に仮名手本忠臣蔵もあり、「忠臣蔵過多」の感があります。どうしたものでしょうかね。12月の公演でしたら理解できるのですが、そのあたりを松竹さんに聞いてみたいところです。

 この物語は、討ち入りを果たして切腹をまつ、赤穂浪士四十七士の最期の一日を演じたお芝居です。こんなあらすじです。細川家にお預けの身となっている大石内蔵助は、最期に備えて緊張した日々を送っています。そんなある日、幕府の使いの堀内伝右衛門(でんうえもん)が、大石内蔵助にひとりの武士を引き合わせます。それはなんと女性。それは、四十七士の一人の磯貝十郎左衛門(じゅうろうざえもん)の許婚(いいなずけ)のおみのでした。話を聞くと、十郎左衛門は、おみのとの結納当日に姿を消したため、その本心を十郎左衛門に聞きたい、と潜入したのでした。そして、大石内蔵助にぜひ十郎左衛門に会わせて欲しいと懇願します。その願いを果たしたおみのは、満足して自害しようとします。そしてまさに果てようとしたときに、切腹する場所に向かう十郎左衛門と最期の面会を果たし、十郎左衛門は覚悟を決めて切腹会場へ向かう。このようなストーリーです。




 配役はおみの役を児太郎、その許嫁の十郎左衛門を染五郎、伝右衛門を彌十郎。そして、大石内蔵助を松本幸四郎が演じています。安定した布陣です。染五郎と児太郎のコンビは安心できますね。彌十郎の安定ぶりが際立っていました。大石内蔵助役の幸四郎ははまり役。堂々とした雰囲気がとてもよく伝わってきました。

 昭和初期の忠臣蔵を題材としたメロドラマですね。典型的な新歌舞伎でしょう。しかしビギナー、または、派手なメイクの「ザ・歌舞伎」を期待している人には肩すかしとなると思います。歌舞伎座で披露される現代芝居、とも言えるでしょう。もちろんお芝居としては素晴らしい演目です。セリフが長くて単調なため、これも寝ている人が多かった。新歌舞伎はこういうものとして、勉強するのに最適な演目ですが、超ビギナーは、遠慮してもしかたないかもしれませんね。

▼昼の部の報告はこちら

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