新歌舞伎入門に!「国立劇場11月歌舞伎(2017)」の初心者向けオススメ度の星評価!


 好評の歌舞伎初心者向け、オススメ度の星評価表!!現在、東京・国立劇場で公演中の「坂崎出羽守」「沓掛時次郎」の初心者向けのオススメ度表です。★が多いほど必見です。満点は★★★★★。
公演会場での「盛り上がり度」、「眠っている人度」、「口コミ度」などを総合的に判断しました。
★:オススメ、☆:イマイチ




【総評】
★★★☆☆
 ビギナーが歌舞伎を気軽に楽しめるか、という視点からですと総合点で三つ星でしょうか。ふたつの演目とも新歌舞伎のため、「普通の時代劇」であるとも言えますし。演目としては楽しいのですが、歌舞伎の典型的なパターンとも違うので、判断が難しい。

 ただ、国立劇場の歌舞伎はここしらばらく「通し狂言」が続いていましたが、今回は違う演目が二幕上演されていますので、お得感があります。一番安い席で3等席1800円。この値段でこんなに贅沢なお芝居を観ることができるなんて、さすが国立劇場です。一幕目の「坂崎出羽守」は大正時代の、「沓掛時次郎」は昭和初期と、いずれも新歌舞伎です。現在、歌舞伎座で公演されている「元禄忠臣蔵」も新歌舞伎ですが、こちらの二つのほうが堅苦しくなく楽しめると思います。出演している役者さんも、ビギナーとしては覚えておかなえればいけない人が多いですので、ぜひ足を運んでいただきたいと思います。

 ビギナーの筆者は土曜日に観劇したのですが、残念ながら空席が目立っていました。演目がちょっと地味なのかもしれませんね。前回の仁左衛門のときはほぼ満席だったのですが、逆にこのようなときにこそゆったりと国立劇場でお芝居を楽しめますので、穴場かもしれませんよ。

<11月11日の観劇記です>
★★★☆☆(1)「坂崎出羽守(さかざきでわのかみ)」四幕
 尾上松緑主演の史劇です。不器用で愚直な男の哀しい物語です。あらすじを紹介します。その前に。。。これは新歌舞伎で、歌舞伎として広く知られている古典の話ではないため、会場でストーリーを楽しむ方もいるかもしれません。以降はネタバレが含まれていますので、楽しみにしているかたは、この部分はスキップしてくださいませ。

 主役の坂崎出羽守は、津和野の城主。津和野というと、いまでは「瓦そば」が有名ですよね。さて、坂崎は大坂夏の陣で、火がはなたれた大阪城から、徳川家康の孫の千姫(せんひめ)を救い出します。それは、家康が、城から救出した者に千姫を嫁がせると言ったためです。どうしても目立った功績をあげたかった坂崎にとってはまさに渡りに船。顔にひどい火傷(やけど)をおいながらも千姫を救い出します。

しかし、千姫は坂崎を嫌います。江戸に戻る船の中で、千姫は洗練されてかつ二枚目な桑名城の城主の嫡男、本多平八郎に夢中になります。坂崎はこれに嫉妬し、不満は高まる一方。江戸にもどっても家康は一向に千姫を嫁がせるという約束を果たしません。その一方で、坂崎はいつ嫁にくれるのか聞いてきます。そこで、家康は、千姫は出家すると嘘をつき、坂崎に千姫を嫁にもらうことをあきらめさせます。しかし、なんとその一方で、千姫はさきの本多平八郎に嫁ぐと知り、愕然とします。好きになった人に裏切られるという屈辱を味わった坂崎の心理描写が深い、お芝居です。

 主役の尾上松緑は、愚直で不器用な武将を好演していました。そしてその対象となる恋敵、平八郎を片岡亀蔵がスマートな武士としてこれも好演していました。亀寿から亀蔵となって貫禄も出てきました。梅枝が演じる千姫も、わがままな孫娘の感じがよくでていました。船の上で平八郎と自然と仲良くなっていくのも、自然に引き込まれていくでしょう。ほか、平八郎をさらに極端にした一途な武士を演じていた歌昇もよかった。松江、橘三郎、権十郎、そして、家康役の梅玉と、ビギナーは全員を覚えておきましょう。素晴らしい安定した配役で、安心して観劇できました。ありがとうございました。

 内容としては哀しい男の物語で、忠臣蔵の討ち入りに通じるような武士の生き方、を表現しています。繊細な人間模様が描かれている新歌舞伎としては傑作なのでしょう。千姫が平八郎をけちょんけちょんに言うシーン(「嫌いでございます」「強がるほどできないではないか」)や、釣りでの滑稽なシーンなど、にやっとする場面が多くて、普通のお芝居としても楽しめると思います。ビギナーは、国立劇場の楽しさと雰囲気をあじわう良い機会だと思います。
 




★★★☆☆(2)「沓掛時次郎(くつかけときじろう)」三幕
 昭和初期に発表された股旅者(またたびもの)の代表作です。作者は長谷川伸。ビギナーはこの作者を覚えておきましょう。あらすじはこんな感じです。これもネタバレが含まれていますので、きになる方はこの部分はスキップください。

 主人公の沓掛時次郎は、三人の博徒に連れられて下総の三蔵の家に復讐にやってきます。三蔵も博徒。この三蔵の家では、今夜こそ三蔵の命が狙われると、妻のおきぬと息子の太郎吉が警戒しています。時次郎は三蔵を殺すことには気が進みませんが、博徒の親方の一宿一飯の義理があったため、仲間たちとともに仕方なく三蔵を斬ってしまいました。しかし、残されたおきぬと太郎吉を不憫に思い、二人を助けて旅を続けることにしました。

 おきぬは三蔵の子を身ごもっていました。いよいよ出産間近になるとお金が必要なるのですが、時次郎ら三人にはお金に余裕がありません。博徒から足を洗って堅気になった時次郎は、おきぬが産む予定の赤ん坊の金策のため、喧嘩の助っ人を引き受けます。1日で一両という大金が得られる、という約束のためです。ようやく大金を手に入れたにもかかわらず、おきぬは赤ん坊とともに出産時になくなってしまいました。悲しみくれる中、時次郎はまた旅に出るのでした。

 博徒の時次郎を梅玉が、その妻のおきぬを魁春というベテランコンビが好演します。二人の安定した演技で、ストーリーに引き込まれると思います。歌舞伎では41年ぶりの上演とのことです。テレビドラマを見ている様な感覚で楽しめる新歌舞伎だと思います。ストーリーも複雑ではありませんし、イヤホンガイドの出番もあまりなかったような気がします。配役は三蔵に松緑、博徒の百助に松江、半太郎に亀蔵、そして最後には片岡楽善も登場します。派手な役者さんはいないかもしれませんが、とてもバランスのよい配役だと思います。

 この芝居の見所は、時次郎の不器用だけど優しいところ。梅玉が感情の機微をうまく表現しています。松緑の息子の左近も上手に演じていました。声変わりがしたのですね。もう立派は歌舞伎役者さんです。

 新歌舞伎のため、ビギナーに勧められるか、と言われると判断が難しい。しかし、こういう時代劇も歌舞伎なのですよ、という好例ですので、みなさまぜひ足を運んでください。国立劇場の雰囲気も楽しめますので。




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