ビギナー必読!でもタイトルが残念「ちゃぶ台返しの歌舞伎入門」(矢内賢二)を読んだ


 歌舞伎研究家でもある矢内賢二の「ちゃぶ台返しの歌舞伎入門」を読みました。ばりばりの歌舞伎の超ビギナーにはちょっとハードルが高く、頭に入りずらいかもしれませんが、ぜひがんばって読んでもらいたい。一方で、一度は歌舞伎を観たことがあって、「もう少し詳しく知りたい」と思っているビギナーには最適な入門本だと思います。手元に置いて、何度か読み返す参考書には最適です。

 この本は、「考察編」と「実践編」に分かれていますが、ずばり「実践編」だけで十分だと思いました。「考察編」はちょっと内容が散漫。それは、途中途中で論文のような詳細な情報が盛り込まれているせいです。学者さんが書いた本なので仕方ないのですが、その部分がないとより読みやすい書籍になるのに、残念です。

 しかしその一方で、作者の女方の原体験が、吉本新喜劇で有名な「桑原和男」、あるいは「ばってん荒川」だというのにはにやりしてしまいました。ビギナーのわたしも同じだからです。また、ゴレンジャーのくだりも楽しいですが、これは成毛真さんも「ビジネスマンへの歌舞伎案内 (NHK出版新書)」で同様なことを書いていますね。隈取りのスターウォーズの「フォースの暗黒面」というところもたしかに色がおかしいかも。中でも一番よかったのは、立ち回りの説明ですね。なるほど、スピード感がないへんてこなチャンバラシーンの理由がよくわかり、もう一度立ち回りをみたくなりました。




 「実践編」はおもしろい。ぜひ、実践編だけで一冊をまとめた本を読みたいです。「寺子屋」の親子と師弟の関係はなるほどど思いましたし、「勧進帳」についての能との比較部分にまさに納得。ビギナーの私も勧進帳は面白いとは思わないので、その理由がわかって安心しました。ほかの演目も読んでなるほどと、とてもためになりました。ありがとうございました。

 良書にもかかららず残念なのがこのタイトル。「ちゃぶ台返し」と言われてもピンときませんよね? このタイトルをつけた編集者は、おそらく歌舞伎のことを知らないかたなのでしょう。なんとかひねってひねって、歌舞伎入門者にも気を引くタイトルにしたつもりでしょうが、うーん、残念。このタイトルで、逆に手に取る人が少なくなってしまっているのではないでしょうか。「ちょっとへんてこだけど楽しい」「奥が深くて歴史を感じ取れる」という意味をふくんだタイトルにしていただきたかったです(代案はないのですが……)。

 いろいろと注文をつけましたがが、なんのことはない、良書です。ビギナーの方はぜひ読んでください。
ちゃぶ台返しの歌舞伎入門 (新潮選書)
海老蔵を見る、歌舞伎を見る 単行本
歌舞伎 家と血と藝 (講談社現代新書 2221)
玉三郎 勘三郎 海老蔵 平成歌舞伎三十年史 (文春新書 1234)
知らざあ言って聞かせやしょう: 心に響く歌舞伎の名せりふ (新潮新書 24)

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